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□不注意なやけど
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クラピカが熱心に調べ物をしている。
彼女は熱中し始めると食事もろくに取らない。
俺も同じような状態になって彼女を困らせることもあるから、強くは言えないのだけれど。

「クラピカ、お茶をいれたよ。一息ついたら?」
「ああ、ありがとう」
言葉ではきちんと対応しているけれど、資料から目を離さない。
俺はテーブルの上に無造作に散らばった資料をどけてカップをおくスペースを作った。
そして、暖かな湯気が立ちのぼるあめ色の液体の入ったカップを置いた。
疲れを取る効果もあるから、今の彼女にはぴったりのお茶だ。

クラピカは相変わらず書き物に目をやったまま
「クロロ、そこにある本取ってくれ」
俺のすぐ後ろに積み上げられた書物を催促した。
俺のほうを見ていないのに、よくわかるものだと感心する(俺も人のことは言えないけれど…)。
「うん」
俺は仕方がなしにうなずいた。

書物は6冊積み上げられていた。
上から何番目?、と尋ねると
二番目の緑の表紙の…、と彼女が言いかけて
「…あつっ!」
急に言葉を途切れさせた。
驚いて振り向くと、彼女は俺が差し入れたばかりの紅茶のカップをソーサーに置くところだった。
かしゃん、と陶器同士がぶつかる音があまりにも大きく響いたので、
俺は彼女がお茶を取り落としたのかと思ってあわてた。
彼女は口元を手のひらで押さえている。
熱かった…、彼女はぽつりとつぶやいた。

「やけどしたの?」
俺は急いで駆け寄って、口元に持っていっている手を取った。
「まさか指?」
だとしたら仕事に影響が出るかもしれない。
「違う。舌をすこし…」
なんだかしゃべりにくそうに舌足らずな口調で彼女は言った。
「ごめん。気をつけるように言えばよかった」
きっと彼女のことだ、ほかのことに気を取られて、紅茶が熱いことも忘れて一気に飲みすぎたのだろう。
彼女は猫舌だからいつも自分でも気をつけるようにしていたはずなのに、そこまで気が回らなかったようだ。
けれど、すべて俺が悪い。
彼女の様子を見てそうなることを予測できたのに、注意してやるのを忘れたから。

「たいしたことではない。すぐ治る」
クラピカはやさしいから俺のせいだとは言わない。
「でも、痛いでしょ?」
「すこしひりひりするけれど」
「見せて」
「ん」
彼女は唇を少し開いて舌をかすかに出した。
赤く腫れてる。
やっぱり俺のせいだ。
「ごめん」
俺は彼女の差し出された舌をぺろりと舐めた。
謝罪の意味もこめて。

「!!」
「冷たい水を持ってくるよ。舌を冷やせば治りも早い」
起こってしまったことを嘆いても仕方がない。
俺はなるべく早く治るように協力しないと。
彼女を見ると、白い頬がみるみるうちに赤く染まっていった。
「なんで照れているの?」
「お前が突然…」
こんなこといつもしているのに。
俺はすこし笑ってしまう。
「突然だったから、照れるの?」
「う、…お前がおかしなことをするから!」
なんだか、たまらなくかわいい。
こんな反応をされるともっとしたくなる。
おかしな気持ちがむくむくと生まれてきた。
そんなつもりでしたのではなかったけど、君が大げさに照れたりするから。
「ごめん。やけどしてるから痛いだろうけど…」
いい?
一応尋ねてみると、彼女はいっそう頬を真っ赤に染めた。
許可してくれることはわかったから、俺はそれを聞く前に、
舌の根から痛めた先端まで、余すことなく俺の舌で触れて彼女の口腔を潤した。
それはとても素敵なひとときで、お茶が冷めてしまうまで俺は彼女を離すことができなかった。

冷たい水は結局使わなかったけれど、次の日に目が覚めてキスをしたときには、もう痛くない、と彼女は教えてくれた。
見せて、と念のため言っても、彼女はもう素直に舌を出してくれなかった。

残念…。

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