頂き物U
□とある物語の冒頭
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――――例えばこの恋物語の始まりは、どうだっただろう。
「実際のところさあ」
「何だ?」
「カガリとアスランってどうなの?」
がしゃーん、と食堂に響いた音は、明らかにカップが割れたであろう。
あーあ、と呟く声は、鳶色の髪を持つ少年。
その目の前に座る金色の髪を持つ少女は顔を林檎のようにしながら口をぱくぱくとさせた。
まったく対照的な二人なのに、纏う空気はどこか似ている。
「ど、どうなのって、どういうことだよ」
「や、あれからどうなのかな、って。ほら、お互い酷い怪我だったからまともに会ってないでしょ?」
「ああ、”あれから”な」
カガリは少しだけ、ほっと息を吐く。
つい数週間前に起こった大戦で、キラもカガリもアスランも大きく負傷し、しばらくは療養を余儀なくされていた。
ベッドに寝たきりだったこの間までは、お互いに顔を合わせることも出来ず、ひたすら治療に専念をしていたのだ。
そういえば、アスランの姿はまだ見ていない。
面会謝絶という訳ではないが、自身もまだ癒えぬ傷を負っている。
無事を確認している今、そう急がずともいいだろうと思っていた。
「まだあいつには会ってない」
「じゃあ、カガリが会いに行ったらアスラン、喜ぶんじゃない?」
「何で?キラのほうが喜ぶんじゃないか?」
「だって仲良さそうだったじゃん、二人って。なんていうか、こうラブラブオーラが出てたっていうの?」
「ラ・・・・!そ、そんなもん出てないぞ!大体、あいつの気持ちなんて聞いたことないし!」
「え、そうなの?でもカガリはアスランの事、好きなんでしょ」
きょとんとした瞳で、さらりと言われてしまうと、ひとり慌てて動揺している自分が馬鹿みたいだと思う。
正直、この気持ちがなんという言葉になるものなのかはっきりとはしないが、アスランの事は嫌いじゃない。
多分、好き、なのだと思う。
「・・・・嫌い、じゃない、けど」
「そりゃそうだよね。護り石まで渡してるんだもん」
「う・・・」
「でもあれなの?アスランから何も言われてないの?」
「別に、何も言われてないけど」
それについて何も思ったことはないしなぁ、ともじもじしながら目を逸らすカガリに、キラは溜め息を吐く。
ラクスという婚約者がいたこともあるのだから、恋愛に関して少しはアスランがカガリをリードしてくれるものだと思っていた。
生きるか死ぬかの極限にいた時間が二人の距離をより近くさせるということは、キラも身を持って知っている。
だからこそ、伝えなければならない事は伝えているだろうと思っていたのだ。
・・・実際、キラもラクスに対して、具体的に言葉にした訳ではないのだけれど。
ただ、目の前のカガリを見ていれば、アスランに対する想いは手に取るように解る。
今まで誰に何を言われようがされようが、カガリはあくまでも親愛としてしか感じ取っていなかった。
アフメドという少年に至っては思わず同情してしまいそうになる程、カガリにそれは伝わっていない。
そんなカガリが、カップを落とし、林檎の様に赤く頬を染め、気まずそうにこちらを見ている。
この状況って、まさしく。
「それってさあ」
「何だよ」
「つまり今の段階では片想いってやつなんじゃない?」
「か・・・・っ!な、なんだよそれ!」
「だってカガリはアスランが好きな訳でしょ。で、アスランからは何も言われてないんだよね?」
「い、言われてないけど!」
けど、の続きを言いたいカガリの気持ちも、よく分かる。
どう見たってアスランはカガリを気にしているし、じゃなきゃ赤服の下にまで護り石なんて着ける訳がない。
解るけどね、と口を開こうとしたキラに、カガリはどん、とテーブルに拳を叩き付けた。
「か、片想いだって言うけどなあ!大体、キスはアイツからしてきたんだぞ!」
「・・・・キス?」
あ、と固まるカガリの顔を、じっくり五秒は凝視しただろう。
更に赤く染まっていく顔に感心しながら、キラも言葉を出せなかった。
キス?キスって、あれだよね。
帰す?そんな訳ない。
「・・・・あのー・・・・・それって、いつ?」
「・・・・・・」
「最近、だよね?」
「・・・・・・にしてくれ」
「え?」
「聞かなかったことにしてくれ!」
「えーそれは無理」
「何で!」
「だって聞いちゃったもん」
いまさら逃すわけないよ、とでも言わんばかりのキラの瞳が、にっこりと形作られている。
カガリは諦め半分、脱力半分でキラを睨み付けた。
かといって、この状況が変わるなんてことはあり得ないけれど。
「・・・・言うなよ、誰にも」
「どうかなー」
「キラ!」
「冗談だって。で、何なのそれ」
キラキラと輝いているという表現が一番適しているであろうキラの瞳を受けて、カガリは重い口を割った。
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