ぴかちぇの冒険☆

□第T楽章
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 仕方なく、岩に爪を立てながら滝壺の方へゆっくりと降りて行った。
 上方からカワウソのフィルが心配そうにこちらを覗き込んでいる。
 半分滝の流れに引きずり落とされる形で徐々に滝壺の方へ降りて行った。
 …………どのくらい時間が経っただろうか………
 ザバン………
 フィルの見守るなか、ようやく滝壺まで降りた。
川上の急激な流れは滝の下では緩やかになっていて、普通に犬かきで川原に辿り着けた。
 足元の乾いていた川原の砂利は直ぐ様水分を含んだ。
 川の水でビショビショになった毛皮は、想像以上に重かった。
 着衣泳まんまだ。
 と、思ってあることに気付いた。

 え…………? 毛皮………?
 もともと毛深さでは自信があったのだが、水に浸って体重が急増するほど毛深くはない。
 そこへ…………
「おーい! 君ィ! 大丈夫!?」
 回り道をして来た先程のカワウソのフィルが走って来た。
「あ………え……えっとお!?
フィル………だっけ………?」
「うん。怪我は無い? ウサギさん」
 フィルは心配そうにこちらを窺って来る。
「うん。大丈夫。
それより………え………」
 ………ウ……ウサギ!?
 一瞬耳を疑った。
 ………いや、自分の聴力は確かだ。
 長年音楽で鍛えられた聴力はフィルの言葉を正確に聴き取っていた。
「ちょっ…………と待って。
私が………ウサギ?」
 この言葉にフィルはいぶかしげに首を傾げた。
「………何言ってるの? 君はウサギでしょ?」
「え………? まさか……………。
私はホモサピエンス………」
フィ「??」
 ウサギと呼ばれ、思わず自分の手を見ると………
「!?」
 それは肌色の人間の手ではなかった。
 白い毛皮に覆われていた。
 間違いなく、ウサギの手だ。
 慌て川の水面に顔を近づけると…………
「………そんな………」
 水面に映った虚像は、人間の顔ではなく、長い耳を持つ真っ白なウサギの顔だったのだ。
 ……………

 ………………そんな………

アタシ………………

…………ウサギになっちゃったのぉ!?

 自分の姿に驚き動揺するウサギを見たフィルも動揺を隠せない。
「君……………。
今更自分がウサギだって気づいたの……?」
「え………だって……。
昨日までは人間だったよ………?」
その言葉を聞いてフィルは不思議な物を見るかのように顔をしかめた。
フィ「人間なんて、ここにはいないよ?」



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