*弱虫ペダル*
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高校に入学して3度目の春。新入生が真新しい制服に身を包み期待に目を輝かせ、高校に向かっている姿を漆世は嬉しそうに見ていた。
今年の1年生は何人自転車競技部に入部するだろうか…確か情報によれば中学の頃、何度も大会で優勝した今泉俊輔、そして大阪から鳴子小吉が今年、総北に入学する……この二人はきっと即戦力になるだろう。そんなことを考えながら私、姫宮A漆世は学校の裏門坂を歩きながら登っていた。
『でもなんでかしら……今年はもっと面白い事が起こりそうな気がする♪』
漆世は一人そう言い楽しそうに笑った。すると後ろから自転車を漕ぐ音が聞こえ、それと同時に何かの歌が聞こえてきた。漆世はこの坂をいったい誰が…そう思い後ろを振り向くと
『っ───────………』
漆世は驚いた。そこには眼鏡をかけた小柄な男の子がママチャリで坂を上っていた。この裏門坂は斜度20の激坂でロードですら苦戦する坂なのに彼はその坂を立ち漕ぎもせず登っていた。
坂道「ヒーメッヒメッヒメッ♪」
『………………。』
何かのアニメの歌なのか彼はとても楽しそうに歌いながら坂を上る、漆世はそんな彼の自転車を見るとクスッ笑った。その瞬間、彼と目が合うと彼は人がいたのかと歌を聞かれたのが恥ずかしく顔を真っ赤にしていた。そんな彼が可愛くて漆世はまたクスッと笑うと
『おはようございます♪あっ私は三年の姫宮A漆世です。貴方……名前は?』
坂道「えっ;///あっあのっ…;///ぼっ僕はおお小野田…;///小野田坂道って言います;///あっ一年です。」
『坂道………』
坂道「あっあのっ;///親がどんな逆行でも上れるようにって;///」
『素敵な名前ね♪坂道……うん良い名前♪新入生なのね坂道君は!?この坂は一度も降りずにここまで上ったの?』
坂道「あっはいっ;///こっちの方が近いので…;///」
『登りキツくない?』
坂道「あっはいっ;///それは平気です…;///あのっ…小学生の頃から毎週秋葉まで自転車で通ってたので…;///」
『えっ;……この自転車で毎週秋葉原まで行ってたの?』
はいっと言う坂道に漆世は驚いた。秋葉原までは片道45キロもある、車で一時間以上かかる距離を彼は毎週通っていたと言う。往復にして90キロだ。その距離を…しかもこの自転車で……漆世はそんな坂道にまたクスッと笑う
『坂道君、部活は何か決めたの?』
坂道「あっ;///いえっあの…;///アニメ研究部に…;」
『アニメ研究部?』
アニメが好きでと語り出す坂道をよそに漆世は確かアニメ研究部は人数の規定が足りず廃部になったはずと思っていた。
『アニメが好きなの?』
坂道「はいっ;///大好きです!!」
『っ─────………////』
そう言い嬉しそうに笑う坂道が余りにも可愛らしく漆世は胸がきゅんっとなった。純粋な眼差しに大きな瞳…よく見れば坂道はとても愛らしい顔をしていた。それに背も漆世より少し低いみたいだ。漆世は可愛いものが大好きで大好きで大好きでいた。そして坂道も漆世の可愛いのツボに入ったみたいで抱き締めたい衝動に駆られたが今ここで抱き付いたら変な人だと思われてしまうとグッと我慢した。
坂も登り終わり裏門につくと漆世は坂道の方に振り向き
『ねぇ坂道君?アニメ研究部も良いけど自転車競技部も気が向いたら見学に来ない?私は総北の自転車競技部マネージャーなの♪きっと楽しいわよ♪あっこのあと坂道君は入学式よね?頑張ってね♪』
漆世は坂道に近づくとちゅっと触れるだけのキスをほっぺにするとヒラリと手を降り去っていく。坂道は何が起きたのか理解が追い付かずほっぺにちゅーされたことに気がつくと顔を真っ赤にしていた。
そんな可愛らしい坂道にクスクスと笑うと漆世は自転車競技部の部室に向かって歩く……5分も歩くと部室に着いた。
今朝は朝から良いものを見た。彼の自転車はギアが小さく沢山漕がなければ前に進めないモノだ。きっと親御さんが子供が遠くに行けないようにと心配して着けたものだろう。だがそのおかげで彼は
『あの脚はハイケイデンスむきの脚ね♪坂道君…自転車競技部に入らないかしら?』
そしたらきっと楽しいことになる…そう思いながら漆世は上機嫌で自転車部室に入った。
『buongiorno♪』
田所「おー漆世、はよーっす。」
巻島「おはよーッショ漆世。」
金城「おはよう漆世。」
『applausi per un buon lavoro♪(お疲れ様♪)』
漆世は朝練終わりの自転車部の3人に近づくと頬に触れるだけのキスをした。漆世はイタリアと日本のハーフで頬にするキスは親しい人にする挨拶で自転車競技部の皆にはその挨拶をしていた。
金城「機嫌が良いな?何かあったか?」
『流石、真ちゃん♪解る?あのね今朝面白いものを見つけたの♪』
田所「面白いもの?なんだそりゃっ?」
『ふふっ♪今はまだナイショ♪』
巻島「まっでも…漆世はこう言う顔してるときって大体俺らにとっても何か重用な時ッショ?」
そう言う巻島に漆世はニコッと微笑む、漆世の思惑が進めばきっと巻島にとってとても大切な存在になる。そう漆世は思っていた。
『まぁ上手く行けばなんだけどね♪あっ皆、順番にマッサージしてあげる♪』
サンキューや頼むの声が聞こえ、漆世は嬉しそうにまた笑った。漆世は自転車部の皆の事が大好きなのだ。早く走る格好いい彼らが……漆世にとってこのチームは誇りでもある。
『新入生が楽しみね♪』
そうして漆世の予想通り……小野田坂道は自転車競技部に入部した。走りは素人だが彼には底知れない可能性が見えた。そして総北恒例の一年生レースが行われ坂道は今泉と鳴子を押し退け山岳賞を取った。だがこのレースで坂道は走りきることはなかった。途中リタイア…だが彼の走りは確実に皆の中に残るものだった。
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