*弱虫ペダル*
□*08
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旅館に戻り、お風呂と食事を済ませパジャマに着替えカーディガンを羽織ると愛車に股がり漆世はある場所へと向かった。
夜の風を感じながら着いたのは総北高校用のテントだった。ソコには選手達の自転車が置いてあり漆世はメンテナンスをするために一人やって来た。
カーディガンを脱ぎ薄着になる。だがやはり夜だと言っても暑い、途中で買ってきた飲み物を飲みながら作業をする。部品に潤滑油を塗ったりフレームを磨いたりタイヤの空気圧を調整したり……それが漆世にできる事だったから。
今日も懸命に走り仲間へと思いを繋ぐ彼等を見て酷く感動した。かっこよくて眩しかった。羨ましい思った。男でない漆世は彼等と共には走れないから。
『私も………男の子になりたかったな。』
誰もいない空間に漆世はそう呟いた。誰からの返事もないし返ってくる事を期待していた訳ではない。だが返事は返ってきたのだ。
「それはだめだな。」
『えっ………?』
背後を振り替えればソコには箱根学園エースクライマー東堂尽八がいた。取り合えず今晩わと挨拶をしたが何故か東堂は入り口で無言で立っていた。そして
東堂「漆世よ…………何て薄着で出歩いているのだ?」
『あぁこれ?パジャマよ。カーディガン羽織っていたんだけど……暑くて脱いだの。』
東堂「少し肌を見せすぎではないか?」
『そうかしら?昨日もこれで皆と寝たわよ?』
東堂「Σ皆とは巻ちゃんのことか?」
『ええ、私は真ちゃんと迅ちゃんと裕ちゃんと寝てるわよ♪同じ3年だから気も使わないし馴れてるからね♪』
そう言うと東堂はならん;ならんぞ漆世!!と言ってきた。そんな東堂に漆世は首をかしげ何で?と聞いていた。
『あっ所でどうしたの尽八君?何か用かしら?』
東堂「用と言うほどではないが漆世が入っていくのが見えたからな?会いに来た。」
『あら♪嬉しいわ♪折角だから話でもする?』
とのことで二人は総北のテントで話をすることにした。よくよく考えたらこうして東堂と二人きりで話すのは初めてだと気がつく。何時もは箱学の人達が一緒に居たから
『ふふっ♪こうして尽八君と二人きりで話すのは初めてね♪』
東堂「そうだな?何時もなら隼人がいるからな?」
『箱学は皆、仲良いものね♪あっ別にうちが仲が悪いとかじゃないのよ?』
東堂「分かっているよ。まぁしかし……総北は仲が良すぎるな?主に漆世と」
『そうかしら?でも仲が悪いよりは良いじゃない♪』
漆世は東堂に学校の時の皆の話を聞いた。その様子に漆世は笑った。とても楽しそうで……そしてやはり東堂はモテるらしいそれに新開も
『はぁ〜やっぱり二人ともモテるのね♪カッコいいものね♪』
東堂「ふっ♪漆世は分かっておるな!?」
『でもどうして彼女作らないの?あっ自転車で忙しいから?』
東堂「まぁそれもあるが……」
『あっ♪気になる人がいるの♪』
東堂「………そうかもな?」
きゃー♪意味深ね♪とはしゃぐ漆世。漆世もモテるだろうと話すと漆世は少し悲しそうに笑う。
『何度か好きと言って貰ったことは確かにあるわ?でも……答えられない気持ちって申し訳無いよね?……そう言うこと思える立場じゃ無いのかもしれないけど……ごめんなさいって言って凄く辛そうに笑う彼等に胸が締め付けられるの……』
東堂「そうだな………確かに断るのは辛いな……だが誠実な思いだ…誠実に返すのが一番だろう。」
『そうね……ふふっ♪尽八君がモテるのも納得いくわ♪貴方って誠実な人ね!?』
東堂「今更だな漆世!!それに俺の何処が不誠実なのだ!」
『えーだってモテたいって思ってるから。』
東堂「ふっ男子足るもの女子にモテたいと思うのは普通であろう!!それに、俺はこの美形……女子達がほっとくわけ無いだろう!!」
そんな尽八に漆世はクスクスと笑った。本当に東堂は箱学のムードメーカーだ。周りの事をよく見てて実はとても後輩思いだったりする。総北の皆のように良い男だ。
東堂「そう言えば漆世はこんな時間に一人でどうしたんだ?」
『ロードの最終調整をしに来たの。』
東堂「Σえっ;総北のロードは漆世が調整してるのか;?」
『ええ。あと2年の子と二人でメカニックを担当してるわ?』
東堂「凄いな漆世は;」
『私は選手にはなれないから……こう言う形でしか皆の役にたてないから…でもその役に立てることに全力をかけてるわ。』
そう言って綺麗に微笑む漆世に東堂は胸が高鳴った。本当に漆世は綺麗だ……そしてとても優しく努力家だ。
東堂「漆世は格好いいな。」
『えっ─────………』
東堂の言葉に目を丸くする漆世。東堂は女子に対して格好いいは失礼だったかとしまったと思う。 だが漆世は頬を染め目を細め微笑むと
『grazie尽八君♪ふふっ♪私ね格好いいって言われるの嬉しいの……何だか真ちゃん達と同じになれた気がするから。』
東堂は漆世の頭をそっと撫でる。
東堂「漆世は良い子だな。」
『そうでもないわ…………だって良い子だったら福富君を叩かないでしょ♪』
東堂「ふっ……そうだな?アレは強烈だったな?」
『あれは去年、福富君とした約束だもの…それに去年叩かないで我慢したのよ私。』
東堂「意外と武道派なのだな?」
『そうね♪私の参加競技も危険だからね♪』
東堂「ん?漆世は何かしているのか?」
『えぇ♪私は射撃部なの。遠距離射撃、クレー射撃に出るの♪皆のインターハイが終わって5日後にね♪勿論……優勝する気よ♪』
東堂「射撃!!漆世は射撃部なのか;?女子の部でか?」
『青年の部……23歳までの男女無差別よ。ソコで私は勝つの。あっ♪何なら応援に来ない?総北の皆も来てくれるって言ってくるから♪隼人くん達も誘って……そしたら私…絶対に勝つから♪』
東堂「そうだな。漆世の勇姿を見に行くのも良いな。うむ♪ならば見に行くとする…福富と荒北、隼人を誘い。」
『約束よ♪尽八君♪』
そう言い漆世は東堂と指切りをした。すると漆世は少し寂しそうに笑うと
『今日の皆……凄くかっこ良かった。私ね………キラキラしてる皆の事が大好きなの…懸命にペダルを踏んで敵よりも数センチ先へと思いを漕ぐ皆が……本当に眩しくて羨ましい。』
東堂「漆世………」
すると漆世の瞳から涙が零れた。
東堂「なっ;……………」
『っ────………;あっ;あれっ;?違うのっ;っ────…;』
漆世はそう言うと涙を拭うがそれでも漆世の蒼い瞳からはポロポロと止めどなく涙は流れる。そんな漆世に東堂はどうすればと戸惑っていた。
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