*弱虫ペダル*

□*02
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確かにさっきの東堂への発言を考えたら、その事も納得がいく。荒北はどんな子なんだろうと……新開があんなに必死に走って追いかけたあの女子に興味を持った。












━━━━━━━…………







『はぁー;危なかった。まさかアレで気付くなんて…;なかなかやるわね隼人君♪でもなんとか撒けたし…;さーて何処の位置が一番、自転車競技部を観察出来るかしら?』





そう言い彷徨くと兎小屋を見つけた。ソコには一匹の兎がいた。




『…………ウサ吉…貴方だったのね♪』



漆世は小屋に近づき小屋からウサ吉を抱き上げ壁に寄りかかり座ると膝の上に乗せ優しく撫でた。




『大きくなったわねウサ吉♪隼人君がちゃーんと世話をしてるみたいね♪あっ人参…食べる?』




そう言って漆世は鞄からスティック状にカットにした人参をウサ吉に差し出すとウサ吉はそれをカリカリと食べ始めた。







『かーわーいー////可愛すぎるわウサ吉♪いっぱい食べて大きくなるのよ♪』




カリカリと人参を食べるウサ吉を優しく撫でる漆世。動物は良い……心が癒される。本当に良いものだ。柔らかい毛並みに温かい体温。愛らしい容姿。小屋を見ても良くわかる隼人がウサ吉を大事にしていることが









『ウサ吉………隼人君の事、嫌いにならないであげてね?彼は本当に優しい人なのよ?あぁ見えてとても繊細なの。そしてウサ吉の事がとても大切なのよ。』





あの日から彼は目に見えない重りを背負って生きている。自分に科せた罪を……そしてそれは箱根学園、主将。福富寿一も同じ。








ウサ吉と少しの間、戯れていると遠くから足音が聞こえてきた。漆世はその足音を聞くとウサ吉を小屋に戻し、残りの餌を置いていくとその場を後にし直ぐに去っていった。















━━━━━━……………









部室の方へ向かうとそこにはお目当ての人物、箱根学園のエース福富寿一がいた。福富を見ていた漆世に気がつくと福富もこちらを見てきた。
他のメンバーがいないのを確認すると福富に近づき











『久しぶりね…福富君♪』



福富「?お前は誰だ?」



『あら?酷い言い種ね福富君?私は貴方の事忘れたことないのに…この顔を見ても…思い出せない?』



福富「っ───…;お前は…総北の……」



眼鏡を取り、目にかかる前髪を退かせば漆世の綺麗な顔が露になる。初めて会ったアノときの強烈なほどの強い蒼の瞳。鋭い眼光………忘れるはずがない。








福富「どうしてここに…;その制服も……;」



『あっ♪似合うかしら?うちの制服も可愛いけど…箱根学園の制服も可愛いわね♪』




福富「あぁ……良く似合っている。」



『…………………』



福富の意外な発言に漆世は少し、驚いたがふわっと漆世は福富に微笑み福富の頬に触れると






『相変わらず…不器用な人ね?ふふっ♪あっ今日のところはただ遊びに来ただけなの♪明日、本格的に挨拶に来るわ♪甘いのは好き?』



福富「多分、皆嫌いではないと思う。」




なら良かったと漆世は微笑んだ。漆世は思い出したように鞄をあさりリンゴ味の棒つきキャンディーを出すと




『はいっこれ。』


福富「えっ?」


『林檎味…好きでしょ?だからあげる♪あっ福富君の分しかないから二人の秘密よ?あと今日、私が来たことは内緒ね♪あっ私に会ったことを言わないでいてくれれば良いから♪それでも気付いたひとがいたらほっておいて?』



福富「それは新開の事か?」




福富がそう聞けば 漆世は微笑みその場を去っていった。それから少しすると新開が慌てた様子で走ってきた。






新開「寿一;!!はぁはぁはぁっ;!!茶髪で;!!眼鏡の細身の女子見なかったか;!!」


福富「…………どうかしたのか?」





福富がそう聞けば新開は洗い呼吸を整えるように立ち止まりはぁはぁはぁと肩で息をしていた。





新開「はぁはぁ;……多分……;多分だけどここに漆世が来てる……そんな気がするんだ;はぁはぁ……ウサ吉のところにも餌があって……所々に…漆世の気配がするんだよ。」




必死にそう言う新開を見て福富はさっきの漆世との約束を思い出すがこうまで必死な新開を見ると会ってないとは言えない。






福富「その女子ならさっき、向こうに行ったぞ。」


新開「サンキュー寿一っ;!!ちょっと行ってくる!!」





そう言って新開はまた走り出した。漆世に会いたい一心で必死に…












━━━━━━━…………







『まぁ福富君が言わないわけ無いわよね〜隼人君の事、大事だもんね?』




でも彼の事だ。行き先は言っても私が来たと言うことはハッキリとは言っていないのだろう。だけど






『餌だけ見せるなんて……福富君も人が悪いわね…』




そう言って漆世は箱根学園の裏門に向かって走っていた。そして他の部活の部室を曲がろうとすると前から誰かが来て






━━━ドンッ!!


荒北「Σうおっ;!!」
『Σきゃっ;!!』



ドンッと誰かとぶつかった漆世。漆世はその拍子に鼻をぶつけ痛みでヴ〜〜;と唸っていたが前を良く確認しなかったのは漆世、謝らないとと顔をあげるとソコにいたのは




『あら?貴方は…?』
荒北「アァ?知り合いだっけェ?」






箱根学園自転車競技部、エースアシストの荒北靖友だった。彼とは面識はなく、情報しか漆世は荒北の事を知らなかった。その荒北が今、目の前にいる…だか




新開「漆世ーっ;!!どこだー;!!漆世っ;!!」



『やっばぁ;|||あっ…』
荒北「アァ?」





新開がすぐそこまで迫っている。逃げても捕まるならば



『ごめんね荒北君?少しだけ付き合ってね♪』
荒北「えっ;?」





漆世はそう言うと荒北を近くの部室に一緒に入らせると荒北にピタリとくっつき息を殺して新開が去るのを待っていた。





荒北「Σなっ;///ちょっ;///」

『しぃーっ!!』
荒北「っ───……;////」


荒北にぴったりとくっついているため荒北の胸板に漆世の胸が押し付けられ漆世の柔らかい胸の感触が伝わってきた。











荒北〈ちっ;///……ちっけー;///てかむっむむむ胸っ;//;胸がっ当たって…;////〉

ヒソッ
『ごめんなさいね荒北君…』

荒北「えっ…;なっ;////」



そのまま漆世はさらにきつく…さらに密着して荒北に抱き付いた。漆世はそうして荒北の体を調べているのだ。








荒北は以外と細身だ。だが筋肉質で無駄がない。良く絞ってある……それにこの脚も……漆世は荒北の足に手を伸ばすと膝から太股をゆっくりと撫で上げた。




荒北「っ───……;////なんっ;///」

『あと少しだけ♪』


漆世は荒北の背中に手を廻しぎゅっと抱き付く。背筋も確りと鍛えている……彼が福富のアシスト……納得のいく作りだ。荒北と福富が組んだ大会は全て優勝していると聞く……良いアシストを持ったと心から思った。






新開が去るのを感じると漆世はゆっくりと荒北から離れる






『隼人君は行ったかな…?巻き込んでごめんね荒北君?じゃー私は行くわね♪Gracias』


荒北の頬を両手で包むと漆世はチュッと頬に口付けをしふわっと笑うと手を振り去っていった。荒北は急なことに呆然としていたが自分の頬に触れ漆世にキスをされたことを思い出すとぼっと顔を真っ赤にした。







そうして漆世は新開に会うことなく箱根学園を抜け出した。近くのトイレで着替えると愛車に股がり合宿場にと戻ってった。











楽しかったな……そう思いながら坂を上ると目の前にロードに乗る人影…青い髪が左右に揺れぶれることなく登る後ろ姿……漆世はその後ろ姿に何故か羽が見えた気がした。





追い越し際にその人の顔を一瞬だけ見たが











『可愛い子だったわね♪まぁ……坂道君には負けるけど♪さーって皆が待ってるから早く帰るぞー♪』














合宿場に着き、皆の練習に付き合い備品をしまったり選手のケアをしたり今日得たデータを漆世は自身のノートにまとめていた。







『荒北……靖友君か……良い選手ね♪』











━━━━━━━━…………











荒北「あれェ?福ちゃんそれェどーしたのォ?」



珍しいものを持っている福富に荒北はそう聞いた。それもそのはずだ。福富が棒つきキャンディーを持っていたのだから。




東堂「本当だな?棒つきキャンディーか福富?珍しいな?」


新開「本当……誰にもらったんだい?」






今日、漆世に会い貰ったと言ったら新開はどう思うだろう……そう考え福富は女子にな……としか言わなかった。そして






荒北「そー言えばァ…俺も変な女にィ会ったヨ?」

東堂「荒北が女子のはなしかっ!!それこそ珍しい!!それで?荒北等を好む珍しい女子とはどんな子なんだ?」


荒北「うるせぇヨ!!ボケナス!!それに好きとか…っ───……;///」



荒北はほっぺにキスをされた事を思いだし頬を染めるとその変化に一同は驚きえっ;?まさかっ…;という雰囲気になる。




東堂「まさかその女子と何かあったのではないだろうな;|||」

新開「Σハッ;!!靖友…おめぇさんまさかその女子って茶髪のポニーテールの女子じゃないだろうなっ;!!」


荒北「っ───……;///せっ;!!この話題はもう終わりだ;///俺はもう帰る;///」


新開「おいっ靖友っ;!!」




そう言って荒北はロッカーを荒っぽく閉めると部室を一人後にした。荒北が居なくなった部室に静かな空気が流れると、少し気まずそうに2年の泉田が恐る恐る新開に声をかけた。






泉田「あのっ…;新開先輩とその方はどういった関係なんですか;?」


東堂「泉田……あー彼女はな?総北のマネージャーをやってるのだよ。」

泉田「総北の;?」


新開「何……泉田…そんな大して面白い話でもないさ…。彼女の名前は姫宮A漆世。総北自転車競技部3年マネージャーだ。ちょっと俺のトラウマに関係しててな…。」


泉田「それって新開先輩が左を抜けない…あれの事ですか;」





泉田がそう言えば新開は悲しそうに微笑むだけだった。懐かしく……悲しい思い出…綺麗な蒼い瞳が…涙でいっぱいになり、頬を止めどなく流れる涙に水色のワンピースが真っ赤な血で染まり紫色になっていた。その女が胸に抱いていたのは……死に絶えた…一匹の兎。新開が殺した……一匹の兎。








新開「っ─────……;||||」

『ひっく;……ごめんね…;……ごめんなさいね;ひっく…うっうぅっ;……彼の事を…責めないであげて……彼の事を……ひっく;……許してあげて……』



死に絶えた兎、彼女のそばにはまだ小さい子兎がいた。母親を殺された小さな兎が……






新開は恐る恐る……女に近付く…。自分のしてしまった罪の重さに新開は吐きそうになる。命を奪った重さに……







新開「あっ;|||………俺……;|||」


『?──………貴方は…;』

新開「兎……;|||死んでるの…;|||」



新開の言葉に漆世は静かに頷く。新開は目の前が真っ暗になり体がガタガタと震え出す……




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