今宵の月のように
□今宵の月のように #19
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失ってはじめて、その大切さに気づいた。
だから、
もう一度やり直したい。
わかる
ような
気がしなくもない。
だけど、
" …好きな人ができたって言われた "
と、俯き語った森田さんの姿を思い出したら、今彼女が発する言葉を理解するなんてどうしたって出来なかった。
いや、まぁ、あたしが理解する必要なんてそもそもないのだけれど。
それでも、
ちょっと虫が良すぎやしないか…?
と、喉のそこまで出そうに一瞬はなった。
…が、しかし。
もちろんそんなこと
あたしが言える立場でも
関係でもないし、
考えてみれば、
どれだけ愛しあっていたのか
どれだけ深い絆だったのか
そんなことは、
二人にしかわからない。
それに…
こうしてありのままの気持ちを素直にぶつけられる女の人の方が、男の人から見たらいじらしくて愛おしいものなのかな…なんて。
まさにあたしには無い、その素直さと可愛らしさ。だから理解できないのかしら…などと、おもわず反省なんかしてみたり。
うん、きっとそうだ。
そう、
あんなに落ち込んでいたんだもん。
森田さんもこの展開を望んでいたのかもしれない。
そんな事を考えながら、
磨いたグラスをぼんやり眺めていた
そんな時に響いた、
『ごめん…』
と言う、
低くて切ない森田さんの声。
眺めていたグラスから
その声の主へと視線を送れば、
『…それはできない。』
と、悩ましげに俯く彼の姿が。
目元を隠した
森田さんの表情は
あまりよく見えなかったけど…
最後に、
『本当に大好きだった…。』
そう呟いた声は、
少し震えていたような
そんな気がした。
つづく