novel

□Breaking
1ページ/1ページ



機械とは違う、生身の人間。
それはとてもあたたかく、儚いものだった。


白くて柔らかい。
そして少し力を入れたら折れてしまうんじゃないかと思うくらい細かった。
加減のしらない自分が握ったら、呆気なく崩れてしまいそうだ。


「スパナ……さん……」
「なに?」
自分の下からする声すら、お世辞にも男らしいとはいえない高いもので。
今にも消えてしまいそうなほど澄んだそれに、ますますこの体の危うさを感じ取った。
そんなことを自分が考えているとは知らない彼は、恐る恐るたずねてきた。

「あの……この体勢は一体……」
「駄目?」
「駄目じゃありませんが……その……」
「?」
上目遣いで見つめられ、胸が鳴る。
琥珀の瞳に少し困ったような色が混ざり、なかなかそそられるものとなった。

「押し倒すならこんな中途半端じゃなくて、もっと思い切っていいと思います。」
やっと口を開いたと思ったら、この少年は……!!
自分の立場を理解しているのだろうか。
仮にも押し倒されているんだぞ、男に。男に!
昨期まであった不安げな色も瞳から消えてしまっている。
さすがボンゴレ10代目、適応性が強いのか。
それとも持ち前の超直感で自分が彼になにかするつもりはないことを感じ取ったのか。
(実際はこういう事態に慣れっこだったりする/主に彼の守護者のおかげ)

しかし、言われてみれば、自分は彼を敷いているが、彼の体に体重がかからないようにしている。
彼の体に己の体が触れないよう、少し隙間を空けて、両手と両足は床に置き、自分を支えている。
彼の両手も、床に押さえつけるのではなく、そのままだ。
(しかもご丁寧に手錠まで一時的にはずしてあげている)
だってそれは、あまりにも機械とは違いすぎたから。
あまりにも儚すぎて、このまま少しでも力をいれてしまったら……

「壊れない?」
「え?」
彼はぽかん、としてからくすり、と笑った。
(その笑顔も儚くて美しい)
「壊れませんよ。」
「本当に?」
「そこまで軟弱じゃありません。」
これでも鍛えられてるんですから、と首にまわされた手にまた胸が高鳴るのを感じた。
「スパナさん、今凄い顔してますよ。」
「……………。」


今まで床に置いていた両手を彼の頭の後ろにまわす。
必然的に自分の体重を支えるものはなくなり、彼に押しつける形となる。

彼の鼓動が聞こえる。
それと同じように、自分の鼓動もきこえているのではないのかと思うと、途端に恥ずかしくなった。
これでは自分の気持ちなんて丸わかりじゃないか!!

あーと項垂れる。


「無理だ……」
「?」
「ウチが壊れる……」
「はあ!?」

どきどきしすぎて、こっちがおかしくなってしまいそうで。
真っ赤になった己の顔を、彼の頭に埋めることで隠した。

彼の鼓動が刻むリズムが、少し速くなったような気がしたけれども。
今の自分には、そんなことを気にできるほどの余裕はなかった。





Breaking
(なんだよこれなんだよこれ)
(なんだよそれなんだよそれ)



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]