novel

□Candy
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今思えば、突入してから何も口に入れてない。
ここには時間を知らせるものが存在しないので実際どれくらい時間が経ったかは分からないが、
自分の腹時計はそろそろ飯の時間だと告げていたのだ。


ぐるうぅぅぅぅぅ〜


一気に場の雰囲気をぶちこわすような音に、戦闘データを分析していたスパナはため息をついた。
仮にも敵に捕らわれているのだから、緊張感というものを持って欲しい。
まあ彼は何も食べていないのだからな、と
「ほら、飴いる?」
仕方なしにまだ未開封の飴を差し出したのだが…

彼は棒付きの飴を見た途端、不満そうな顔になって、
「こんなのじゃ全然満腹になりませんよ。
 育ち盛りを馬鹿にしないでください。
 ルームサービスとかでなんか頼めないですか?」
「ホテルじゃないんだし。
 あってもウチはそういうの嫌いだからとらないよ。」
腹の足しにもならないと怒られた。
ていうかあんたちゃっかり受け取って食ってるじゃん!!
なにあんた。なにあんた。
せめてありがとうくらい言えないの!?
可愛くないやつだなとか思うも、飴を頬張ってる彼の姿に見とれてしまう自分がいるのだから嫌なものだ。



一方、「オレどっちかっていうと苺がよかったな〜」なんていいながら、
メロン味の飴をなめていた(なんて図々しい)ツナはふと、昨期の会話であることに気付く。

「スパナさんて、いつも飴なめてるんですか?」
「糖分摂取だ。」
「糖尿病になったって知りませんよ。」
「……糖分摂取だ。」
「いい年した大人が飴ばかりなんて、
 うちにいる五歳児の子どもと同じですよ。」
「…………糖分摂取だってば。」
ずびずばと傷つくことを言ってくるな、こいつ。
しかも飴もらった分際で。さすがボンゴレ。
10年前でこれなら、この時代の彼はさぞかし扱いにくい男だったのだろう。さすがボンゴレ。


もう相手にするのも疲れたスパナは、データ分析に打ち込む為、再びディスプレイに視線を戻す。
すると今度はツナの方がスパナに近寄ってきて、くんくんと犬のように匂いをかぎ出した。

「スパナさんが舐めてるの、苺味?」
「そうだけど?」
彼はじ〜っとこちらの飴を羨ましそうに見ている。
苺味が欲しいならもう一つあげようか、と言おうとした矢先……

「交換しません?オレのメロン味と。」

にっこりと綺麗に笑った彼にスパナは否定もできず、気が付いたら自分と彼の飴は入れ替わっていた。
(両手には手錠がされているというのに、器用なものだ)
大好きな苺味が手に入った彼は幸せそうである。


スパナは呆気にとられていた。
戦闘中の彼とは感じが違ったから油断していたのかもしれない。
口を閉じ、下をはわすと、昨期入っていた飴よりも少し大きめの飴が入っているのが分かる。
そして口の中には昨期とは違う、メロンに似せた味が広がっていた。
別にスパナは味なんてどうでもいい。
逆にもともとあった飴より大きいのが手には入って得した気分だ。
(まあ元をたどればどちらもスパナのものなのだが)

でもよくよく考えたらこれって…これって……


「どうしたんですか?」
「〜〜〜〜〜!!」
突然頭を抱えだしたスパナを、ツナは頭に疑問符を浮かべて不思議そうに見ていた。

「ああ、これありがとうございます。」
「!!!」
だからもうこの少年は!!
このタイミングで今更お礼を言うのか!!
追い打ちをかけるようなことしないでくれるかな!!

さすがボンゴレ。
ナチュラルにやってのけるとは。
それが天然なのか策士なのか。
そんなことはもうどうだっていい。


顔が熱くなるのを感じる。
やられた!!これは……



Candy
(間接キスだ!)


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