novel

□変な人
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「ああ、それじゃやっぱりもう日本人は一生に1,2回くらいしか着物を着ない人が殆どなのか。」
「……うん。」

誰か、今のこの状況をダメツナなオレにも理解できるように教えてください。
なんかオレ今、数十分前までは戦っていたような敵に日本文化について語らされてます。


「勿体ない。着物…特に女物は洋服にはない清純さがありそれでいて華やかで……」
「は、はぁ……」
ひとりでぶつぶつとつぶやき始めたスパナに、オレはただ相打ちを打つことしかできない。
ああやっぱりこの人は苦手だ。
てかオレ、この時代の日本事情はなんにも知らないんだけど、とか
でも雲雀さんは和服だったなぁまぁあの人和が似合う人だし、とか
何処か現実逃避じみたことを考える。
「あ、そうだ。今度通販で取り寄せてやるからボンゴレ着てみなよ、女物の着物。」
「何故!?着ないよ!!てか今度ってあんたいつまでオレをここにいさせる気だよ!?」
日々の慣れと癖で突っ込んでしまったオレだが、じーっとこちらを見つめてくるスパナにハッとした。
そうだよ、ここは敵地で彼は敵だ。
そして自分は拘束され逃げられない身なんだ。
しまった、迂闊に大声なんて出すんじゃなかった…と今更ながら後悔する。
反抗するなと殴られるだろうか、それともあのドラム缶の上に置いてある銃で打たれるだろうか。
どちらにしろあまりいい結果ではない、と怯えた目で恐る恐る顔を上げるオレに、彼は口を開いて…

「ボンゴレは可憐だから似合うと思うけど…」

そっちかよっ!!
しかも可憐て……背が低くて筋肉も肉もついてないのはオレのコンプレックスのひとつだぞ!?
それをさらりといいやがって、幼気な少年を……って違う違う!論点ずれてるから!
「もっと自分に自信をもつべきだ。」
そういう問題じゃなああい!!
オレ生物学上は歴とした男だから!
右手の親指つきたててんじゃないよっ!
ああもうこの人変!絶対変だ!



「あとは……」
なんかメモってるよ。すっげー楽しそうだよ。
この人ほんと日本が好きだなあ。
なんせドラム缶に『チャブダイ』って書くくらいだから。
卓袱台、買えばいいのに…お金ないのかな?
いやモスカをあそこまで強化するくらい研究費をもらっているんだ、それはないだろうとは思ったが
いつか本物の卓袱台を買うことを夢見て筆で文字(しかも片仮名)を書く彼はなんだか可愛かった。
変な人だ、そしてまだ恐い。
でもなんだか憎めないのも事実。


それからスパナと日本の話をしていたが、
内容はどんどん衣類からずれ、一般家庭の生活状況へと発展した。
「ふむ。やっぱりジャッポーネの冬はこたつにみかんが定番だな。ボンゴレの実家にもあったかい?」
「え?う…うん。」
冬になると寒いから、ついついこたつでゴロゴロしてしまうんだっけ?
ぽかぽかして暖かいし、うっかり寝てしまって次の日風邪をひいてしまう。
そして何故か毎回山盛りのみかんが中央に盛られている。
どうしてこたつにみかんなのかは知らないが
それは東洋の神秘だと目の前の彼は目を輝かせて語っている。
いやそもそも東洋の神秘ってなんだ?
聞き慣れない単語に、オレは首をかしげるしかなかった。

「それにしてもいいな、こたつ。前、ここの上司にね、こたつ置いて欲しいって頼んだら全力で断られたんだ。」
それはあたりまえだろう。
こんな機械の部品だらけしかも床も金属でいかにもな感じの部屋にこたつは似合わない。
チャブダイという文字と日本茶やきゅうすでさえもここでは浮いて見えるのだから。
オレはこんな変人な部下を持ってしまった彼の上司(会ったことはないが)に深く同情した。


「だからボンゴレ、代わりに女物のゆかた着てくれない?」
「なんで話そっちに戻すの!?てか女物から離れなよ!オレ男!」
再び大声を出してしまって後悔する。
しまったオレ、一度ならず二度までもっ!
冷汗をかいているオレに、スパナは右手を挙げた。
ひぃっ!ごめんなさいごめんなさいっ!!絶対今度こそ殺される!!
そして彼は手を振り下ろして……

そのままぽん、とオレの頭を撫でた。


「…?………?……?」
状況が理解できず、オレはただただ頭に疑問詞を浮かべることしかできなかった。
え、オレ敵に頭を撫でられてる?
「大丈夫、可愛い可愛い。」
動物扱いだなもう!!
あんたオレのこと何だと思ってるんだよ!?
しかも可愛いなんて男が言われて喜ぶような言葉じゃない!寧ろ凹む!

とりあえず昨期と今の言動からこの人はオレを殺す気はないらしい。
純粋に話がしたいだけなのかな?ほらやっぱり変な人だ。
おずおずと顔を上げると、頭を撫でてる彼と目があった。
その顔はこれ以上ないくらい幸せそうに微笑んでいて…

「!!!」

ぼん、と顔に火が灯るような感じがした。
慌てて顔を俯かせる。
うっわーこの人あんな顔もできるんだ。反則だ、こんなの絶対。
格好良かったんだけど!なんか!
てかオレ男にときめいちゃってるし!
風邪をひいて熱があるときくらいに両頬が熱い。
今絶対顔真っ赤だよ!みせられないよ!
そしてどんどん速くなる心臓の音が煩い。

オレをこんなふうにさせるなんて、やっぱりこの人は変な人なんだ!







変な



「あ、着物の帯引っ張って『あ〜〜れ〜〜』とかやらせたいんだけど」
「あんたは日本文化のなにを学んできたんだよ!!!」



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