元トップのポエム置き場。増えたり減ったり。気紛れ更新。
どこかにいる、“犬”と“月”に捧げるウタ。













プロローグ





ずっと


いつからだろう?
それすら覚えていない。


ずっと

ずっと・・・



見上げていた。

でも確かに僕らはこの場所で出会ったんだ。










No,1





気持ち良い疲労感が全身を包む。

深夜の静かな町が好きだった。


だから、深夜上がりのこのバイトを選んだんだ。
昼間は夏じゃないかって思うくらい暑いのに、今はひんやりと少し肌寒い。
通いなれた駅へと続く道、見慣れている景色がいつもと違う風景に見える。


使い込んだ原付を押しながらぼんやりと歩いた。

明日の授業、また寝てたら怒られるだろうなぁ。
あ、リミちゃんに宿題借りっぱだった。提出っていつまでだっけ?



その建物を見上げたのは偶然で、
でも、いつもこんな深夜に非常口を告げる薄暗い緑の明かりしか溢れていない窓達から

一室だけ光々と明かりが灯っていたから。

当然と言えば当然かもしれない。


そこには黒くて小さな人影が一つ。


「・・・」


アイツは・・

逆光でも見覚えがある姿だった。
だって確かに彼女は去年まで同じクラスにいた。年始めの席替えで隣の席になったのだ。


原付を押す手が止まる。


「何でここに?」


引っ越したって聞いていた。
だからまさか、彼女が僕らの通学路沿いの大学病院の窓から顔を出しているなんて。
思ってもみなかった。

見間違いかとも思ったが、アイツの姿を間違えるハズはない。




しばらく見上げていたんだと思う。
眠気と寒さでこめかみの辺りがじくじくと痛んだ。



仕方なく僕はいつもの道をいつものように駅に向かって歩き始めた。


振り返って彼女のいる窓を見た。
さっきと同じようにどこか遠くを見つめる彼女。



きっと、僕に気付いていない。




電灯の明かり。

静かな夜。


君の明かりを追いかけて

でも、君は嘘が上手いから。
孤独さえ味方にしてしまう。

手を伸ばしたのは舐めてほしいから。










No,2





ひらり、ひらり、

何かの影がまぶた越しに現れては消え、現れては消えを繰り返した。


あ、コレ夢だ。



たまに自分が見ているのが夢だと分かる時がある。
何で、と聞かれると分からないけど。


それにしても、さっきからちらちらするこれは何だ?

夢の中で僕は目を開けた。

そこは白くて朧気な世界で、その影が蝶々の形をしているんだと分かった。
視界を殆んど埋めてしまうほど、沢山の、色とりどりの蝶がひらひらと宙に舞っている。


“すげぇ”


そのさまは見ごたえがあった。
この白濁とした世界に、ポツポツと絵の具を滲ませたように彩りを与えている。

辺りを見回していたら、ここから10メートルくらい離れた所に誰かが立っているのに気が付いた。
その人物は、手の平に乗せた一匹の青い蝶を愛しそうに眺めていた。






まさか、こんな所で彼女と再会できるとは思わなかった。
あの時、窓辺に佇んでいた格好だ。



“よぉ”



僕は片手を上げて言った。

青い蝶が彼女の手から飛び立った。
此方に振り向いて、一瞬驚いた顔をするが、すぐに優しい笑顔に変わった。


“久しぶりだな”



彼女の口が動く。



「ったく、久しぶりに教科書を開いたのか?」



「え?」




急に笑い声が降ってきた。
ばっと、顔を上げると後頭部に平たくて分厚い何かに衝突した。


「いってぇ・・」


また、笑い声が沸き起こった。


「よぉ、起きた?」


頭を抱える僕に、覗き込んできたひげ面眼鏡親父。


「・・田部ちゃん?」

「そ、熟睡中悪いがまだ授業中でな。次、お前読め」


・・そういえば授業中だったっけ?
いや、ちょっとビビったけど。


授業は始まっているが、昼休み後の教室には、まだまったりとした余韻が残っていた。
僕の机の横では腕を組んで、辞書を抱えた仁王のような田部ちゃんの姿があった。

何やってんだよ。と後ろの席から野次が飛ぶ。
しょうがないだろ?昨日は殆んど寝てないんだから。


仕方なく立ち上がって、言われたとおり教科書に目を落とした。


一拍、読むのに時間がかかった。




そのページには詩と一緒に、淡い水彩で描かれた蝶の群の絵があった。





君のいない午後。

まどろんで見た白昼夢。

白濁とした世界の中、胡蝶達はゆらりゆらりと舞い狂う。



目覚める意味なんてあるのだろうか?


いつも遠くで微笑む君が、ほらすぐ側にいる。



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