「起きろ、人識!」
「え?」
俺はベッドに寝ていた。ごくごく普通に寝ていた。俺にとっては平凡な現実、だがそこ…俺の枕元には小さな小さな匂宮出夢がいた。



零崎くんの恋人



「はっ!?何でお前、えっ?小さっ!」
「じゃーん僕小さくなっちゃったー」
クルリとターンしてニヤリと小さな生き物は笑った。おかしい。絶対におかしい。これは夢だ、幻覚だ。だって人間は縮まないし、それにもう出夢は…
「おいおいおいおいおい細かい事は気にすんなよなー。事実は小説より奇なり、だぜ。慣れろ」
「慣れるか!」
出夢はこの状況を楽しんでいるのか、笑みを絶やす事はない。小さな出夢を観察する。取り敢えず
「服、着ろ…」
「えー、もう恥ずかしがる仲じゃないだろー僕達」
「いやまじで目のやり場に困るんで何か着てください!」
「服持ってません!」
「いばんなっ!ってないのかよ!」
「ない!」
もとよりない胸を張り自慢げに言い張る出夢に溜息を吐く。何もそこまでいばらなくても。しかしこの全裸状態にしておく訳にはいかないので、取り敢えず人形用の服でも着させるか。大きさも丁度いいだろう。
「待て、俺が服持ってくる。ちょっと待ってろ」
「え?僕の大きさ用の服あるんだ」
「たぶん、俺の兄貴の部屋にあると思う」




「お、ぴったりー。どーだ人識、似合うだろー」
兄貴の部屋にあった人形の服を着させてやる。鮮やかな緑色のセーラー服から見える生足が眩しい。有難う、オタクの兄貴。今だけは感謝した。
「ああ可愛い、可愛い」
「…っ!

だ、だろっ!僕って存在自体が可愛い殺し屋さんだからなっ!」
「はいはい」

しかし、それにしても小さい。いったいぜんたいどうしてこう傑作な事になったのかは分からないが、幾分この状況に慣れてきた俺がいる。人間の適応能力は凄いな、マジで。
「んー…」
「あ?どうした出夢」
突然難しい顔をし出した出夢に驚く。もしかして小さくなった原因か何かが分かったのだろうか。
「これじゃあ、やらしー事出来ない」
「ぶっ、あほか!」
「えー超重大問題だぜー。あ、僕が身体全部使って奉仕してやろうか」
「結構です!」
所詮はそんな事か!シリアスになった俺が馬鹿だった。
…言っておくが、想像なんかしてねーからな。少しもだぞ!

「つまんねー。ま、この問題は夜にとっておいて、今からどっかに行こうぜ!」
「おまえっ!この状況下で何悠長な事…っ」
「ぎゃはは、良いじゃんええじゃん。こういう時こそ焦らずじっくり遊ぼうぜ。今時の若者がこんな時間から部屋に引きこもってるなんて精神肉体衛生上悪いぞ〜。行かなかったら、そうだな…今からやらしー事を…」
「分かったよ!外行きゃー良いんだろ」
アッサリと根負けした俺に、キャッキャッと出夢は飛び跳ねて喜ぶ。そんなアイツを微笑ましく思いながら俺はベッドの上から這い出した。
タンスの元へ行きラフな服装へと着替える。
「いやーん生ストリップ」
「全裸だった奴が言うか」
「だってさー…何この手?」
俺は出夢にむかって手を差し出した。
「乗れよ。ポケットに入れてやる。ただしあまりおかしな事するなよ。見つかったら見世物小屋行きだと思え」
「…ぎゃは、OKOK!」
ストンと手の平の上にジャンプした小さな物体を持ち上げる。思ったより軽いな。俺の上着左ポケットにそっと入れてやれば、ヒョッコリと出夢が顔を覗かせた。
「行こうぜ、人識!僕、海鼠みたい」
「微妙なチョイスだな…」
相変わらずハイテンションな姿に苦笑いを浮かべる。俺はサイフだけ持って部屋の扉を開けた。
「ごめんな」
「…ああ」
出る瞬間出夢が謝ったけど、何に対しての言葉だったのか俺は聞かなかった。














その日の夜、出夢の言ったやらしー事をしたか否かはご想像に任せるが事態はより悪化した。
「やぁやぁ人識くん!」
「…は!?」
目の前には零崎双識。枕元で全裸で笑っている。
「んぅー?何だぁ…」
小さいのが二人。騒ぎ出す小さいのを他所に俺は現実を拒否して、もう一度寝ることにした。




Thank you very much!

....1th....

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