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□《初恋は、ヒトミちゃん》
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「………………」
 第一沢木も沢木だ。折角こっちが一生懸命フォローに回ったのに、あの態度はなんなんだ。馬鹿にするのも大概にして欲しい。
 蛍は鼻息も荒く廊下を早足で歩いていた。「チビ」が沢木に対して禁句なのは骨の髄まで分かっていたから、口に出すのはなんとか控えたけれど、今思えばむしろ言ってしまいたかったくらいだ。
「沢木の阿呆、間抜け、とんちんかん、朴念仁……」
 自然、数え上げていく語気もどんどん強くなっていく。沢木を「背が低いから」という理由でフったヒトミちゃんは蛍の眼中にはない。
 何しろ蛍は『大丈夫』と言ってやったのだ。『身長なんて、これからいくらでも伸びる』、とも。本当はむしゃくしゃしてたまらなかったのに。
「結城くん」
 ああもう我慢ならない。思ったところで蛍の足が止まった。
 目の前には、ヒトミちゃん。
「何、」
「あの、ね、結城くん」
 ヒトミちゃんに恨みはない。恨みはないのだが、やはりその顔がまともに見れない。蛍の視線は、自然と彼女の目よりも心持ち下へといく。沢木は、ここらへんを見ながら告白したのかもしれない。そんなに身長が気になるんたら自分より背が低い女子を選べばいいものを、どうして、よりによって、ヒトミちゃん?
「あのね、私、結城くんが好き!」
「……ヒトミちゃん、何センチだっけ」
「え、158だよぉ」
「(絶対サバ読んでるな)ふぅん、僕は157だけど」
「うん、それで?」
「ヒトミちゃんより身長低いから、ごめんね。自分より身長の低い男子とは付き合えないんだろ」
「え……」
 呟いて、さっさと踵を返した。沢木に会いたい、と思ったのである。自分から謝るつもりは毛頭なかったが。
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