PLAYS

□《母性本能》
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「沢木、おなか壊すだろうな……」

*

 単車に乗って、及川は軽快に走る。髪を撫でていく秋の風が心地よい。
 が、その心地よさもすぐに消えてしまった。
 遠く離れていてもよく見える真っ黒い影が、休業中の日吉酒店前に据え付けられたベンチに腰掛け何やらノートに書き付けている。その隣に詰まれた本の山のタイトルはまだ見えなかったが、予想出来ないわけではなかった。
 結城蛍。沢木の幼馴染みにして造り酒屋の一人息子、というのが及川の彼に対するイメージの全てだった。
 だからレースやフリルでいっぱいの、人形のような格好をした可愛らしい少女は別人のはずだった。
 酒店のすぐ前で、ゆっくりと単車のスピードが落ちてゆく。
「こんにちは」
 レースやフリルでいっぱいの、人形のような格好をした結城蛍は清潔に微笑んだ。
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