PLAYS

□《夢のあと》
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 それでは次のニュース。部屋に流れるBGMはいつの間にかお昼のワイドショーから午後のニュースに切り替わっている。
「沢木、」
 ああ、だけど耳をくすぐるこれは、誰の声だったっけ?
「沢木、起きて」
 そっと、肩に手がかけられ、揺すぶられ、沢木はそれでも夢と現実の間を漂っていた。何か香水のような匂いがした。
「沢木」
「う、ちょ、蛍!いだいいだいいだい」
 見れば、自分の上には相変わらずあの名前が分からない服を着た(ゴスロリだなんて言ったら怒られそうだ)蛍が跨がっていて、心のどこかで微かにいい眺めだと思わなくもなかったのだが、尖った爪の手で頬を抓られていたのでそれどころの騒ぎではなかった。
「沢木が起きないから」
「や、もう起きてるから!」
 疑わしげな視線を当てられ、沢木はため息を吐くと蛍を押し退けて上半身を起こした。自分は布団も敷かずに畳の上で眠ってしまっていたらしい。体がぎしぎし痛むのを無視して大きく伸びをしたところで、ようやっと蛍も沢木の足元から去る気になったらしく立ち上がった。
 作業衣なら兎も角、この姿の蛍を自治寮の部屋で見るのははじめてだ。不思議な違和感を持ってしまうのも無理はない。しかも蛍がじっと沢木を見つめている、とくれば。
「……蛍」
「うん?」
「あー……その、なんだ。先輩たちに俺を起こせ、とか言われて来たのか?」
「ううん」
 やけに艶やかなウィッグを付けた頭を蛍が横にふる。先程と同じいい匂いが、再び沢木の鼻元を擽る。
 そして、蛍は綺麗な笑顔を浮かべ、
「話したかったから」
 白々しく言った。
「………………」
「沢木?」
「だからって、起こすことなかっただろ」
 なんとなく照れくさくなって、蛍のまっすぐな瞳から目を逸らす。化粧のせいだと分かっていても、やはり大きな目は魅力的なものだった。
 何しろ第一印象で、可愛らしいと思ってしまったのだ。
「蛍?」
「何、沢木」
 一般的な男より気持ち高い声。殺風景な部屋を背景にして立つ蛍を座ったままでしばし見上げる。
 沢木は目線で蛍に座るよう促すと、その肩越しにうるさいTVを消した。最後に仕上げとして、おそるおそるではあったが、生まれてはじめて自分から顔を近付けてみた。予想通りに、黒い口紅の味がした。



***

男前な沢木が書きたかった。
例の部屋に存在している蛍はなんかアンバランスな感じで興奮する。
→蛇足
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