PLAYS

□《怪我の功名》
1ページ/2ページ




 それからが大騒ぎだった。
 僕がなんでもないと言ったのに(実際歩こうと思えば歩くことだって出来なくもなかった)、誰も耳を貸してくれなかった。特に沢木などは酷く真面目な顔をしていた。水飲み場まで僕を引っ張っていき膝についた砂を洗い流したのも、保健室に引っ張っていったのも、保健教諭がいないと見て取れば消毒液を塗りたくり、やけに大きな絆創膏を傷口に貼ったのも沢木だった。たった一言、
「菌がつくから」
 と言って。
 ―――それ程説得力のある台詞もなくて、僕は思わず笑ってしまった。
 そして保健教諭が戻ってきた頃には手当てという手当ては全て終わってしまっていて、沢木は大層褒められ僕は少しばかり叱られた。サッカーで怪我をするなんて結城くんらしくもない。
「でも、歩けますよ、僕」
「あ、おい蛍!」
 立ち上がろうとした瞬間、包帯で固定されたはずの膝に激痛が走った。結局沢木に倒れかかった僕に、だからだろうか、帰宅命令が下された。
「けどそれって、病院に行けってことですよね」
「結城くん、あなたさっきから病人のくせに文句多いわね」
 舌打ちが堪えられそうになかったので、なんとかため息で誤魔化す。
(なんでほっといてくれないんだろう)
 学校の先生の嫌な点はここだ。大きな顔をして、本当に大きなお世話ばかりしてくる。僕が黙っていると、彼女もまたため息を吐いて立ち上がった。電話をするつもりのようだが、止める術もない。
「だったら、俺が連れて帰るよ」
「は?」
「どうせ今日は半ドンだし、先生もそれでいいだろ」
 備え付けの黒電話を手にした保健教諭が一瞬動きを止める。
「だからって、ねぇ」
 そして彼女が考えるようなポーズを取ると同時に、4時間目のはじまりを知らせるチャイムが鳴ったのが決め手となった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ