PLAYS

□《生きてる証拠さ》
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 といったところで僕らははたと困ってしまった。勿論ふたりとも経験がないからだ。いや沢木がどうだか知らないがとにかく僕にはなかった。幼稚園のころは親にぺたぺたとほっぺちゅーをしていた。沢木にもして気持ち悪がられたような気もする。小学生は女子をばかにしていた。中学のころ付き合った女の子とは手を繋いだだけだった(その後無理矢理付き合わせたくせに「結城くんは何もしてくれないっ」と叫んで彼女は去っていった)。高校生の僕は、沢木に片思いをしていた。よく言えば沢木のためにその処女性……ヴァージニティー……とにかく何か形のない男のプライドに深く関わるものをとっておいたのであり、悪く言えば、ただ単に大学生にして情けないことにまだ童貞なのだった。
 それで、沢木があたかも小学生が先生の質問に答えるみたいに、
「俺、どーてーだから」
 と手を上げて宣言したものだから、僕らはすっかり困ってしまったのである。
 さて今までのあまりにも乏しい経験(AVやらエロ本やらクラスの男子の話やら)を鑑みるに、ことを為す前にはどうやらほぐさなければならないらしい。しかも僕らは男同士なので、現実問題として有効活用出来る知識はまったくのゼロだった。
 それで、僕が沢木の腕を掴んだままうんうん唸っていると、沢木がまた、
「じゃあ、俺が蛍に入れるから」
 となんだか男前なことを言うので、僕はいつの間にか、うん、いいよ、と言って頷いていた。
 ふたりとも、めちゃくちゃ、行き当たりばったりだった。
 どれもこれも経験がないせいだ。舌打ちをすると、沢木に宥められた。キスで。
(いつの間にそーゆー手を覚えたのだ!この幼馴染みは!)
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