PLAYS

□《生きてる証拠さ》
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「蛍、まだかー」
「まだ」
 勿論、かくれんぼをしているわけじゃない。
 ごそごそとペティコートを脱ぎきちんとハンガーにかけながら僕は泣きそうになった。びんぼーくさい。貧乏くさすぎる。しかも本格的な貧乏じゃなくて、お前もっと節約するところがあるだろう、と言いたくなるような貧乏っぷりだった。ムードも何もあったものではない。もっとも沢木に僕服を脱がせるわけにもいかず、沢木の前で服を脱ぎたくもなかったのでこうするしかない。それなりに高かった服だった。僕は妙なところで慎重になりそうになる自分を必死で押さえ付けながらパンツ一丁で沢木の前に進み出た。恥ずかしくて死にそうだった。
「沢木!!!」
「え、何」
「何、してたのっ」
「何って、蛍待ってたけど」
「そーじゃなくて!!」
 なのに。
 なのになのになのに。
 沢木は服を着たままで、怒りと恥ずかしいのと惨めなのと、少しだけ寒いのとで、僕は思わず怒鳴っていた。
 なのに、沢木は何がおかしいのか爆笑しはじめて、ひぃひぃ言いながら逃げようとする僕の手を掴んでふたりで床に倒れ込んで、後頭部を手で庇うなんていうよく出来たサービスなどあるわけもなく、こぶが出来たのではないかと思う程に頭をしたたかに打ち付けた僕が涙目になっていたのを、何を勘違いしたのか子供みたいに嬉しそうな顔でにやにやして、蛍、かわいい、とかなんとか無邪気に言いやがって、その無邪気さの割りには戸惑いが見当たらない、今日、再びの、ごまかしのキス。
「……けど、ごまかされてやろう」
「蛍、何言ってんの?」
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