小説@
□しあわせな日
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「おい、何か欲しいモンはねぇか」
それがボスの気まぐれだとは分かっていた。この男はわざわざ率先して誕生日を祝う性格なんてしていない。まぁ、気まぐれだとはいえ、これに便乗するのはありかもしれない。このボスのことだ。多分何だって聞いてくれる。最も、ボスが予想している物は金さえあればなんとでもなるものだろう。しかし、俺が欲しいモノは生憎そんなものじゃあない。
「…えっと、じゃあ、これ」
パラパラと見ていたケーキのカタログを差し出し、フォンダンショコラを指す。
「こんなものでいいのか」
ボスが不満そうに眉をしかめる。せっかく言ってみたのにあっさりと済んだことに対してだろう。だが、俺が言いたいのはそうじゃない。
「それはそうなんだけどさ…ちょっと違うっていうか…」
「さっさと言え」
「…あー、ゴホン。フォンダンショコラが食べたいです、ボスの手作りの」
「…………」
無言。まぁ、元からあんまり期待は…してるけど。50%くらい。でも一応駄目元だし、ボスの銃でも改造させてもらうかぁと考える。
「…今から作れば3時には間に合うな」
「へ?」
「施しだ。くれてやる」
「えぇ!?」
「何だ、いらねぇのか?」
「いやっ、いります!欲しいです、めっちゃ食べたいです!」
「ぶはっ、必死だな」
そりゃあ必死にもなるさ。…にしても、本当にまさかの展開。強運すぎるだろ、俺。
ボス以外の幹部が作ったものならだいたい食べたことがある。ルッスはよくおやつなんか作ってるし、スクアーロやレヴィは普通に自炊が出来る人だ。上手かった。マーモンはたまにお菓子を作ってはおすそ分けしてくれる。誕生日、クリスマス、その他イベント時に大量に現ナマをプレゼントしているので少しは還元しないとね、ということらしい。それで気前よく現ナマを渡す俺も俺だが。ベルは前に一度風邪を引いた時にリゾットを作ってくれた。…案外優しいじゃないか!と感動した。
そんなことを思い出しつつ談話室の俺の指定席、少し小さめのソファに座る。四人掛けのソファにはベルが寝転がっていて、スクアーロはテーブル席に座って雑誌を読んでいた。同じテーブルにルッスが頬杖をついている。何だか楽しそうだ。
「そろそろかしらね〜♪」
「ししっ、ボスの手作りとか超気になる♪」
「…だよなぁ。どーしていきなりこんなことしたんだか」
「それはアレだ、普段の俺の行いがいいからだ」
「気まぐれ以外の何物でもねーよ。調子乗んな」
何か良い匂いがしてきた。ルッス曰く、ボスがエプロンつけてお菓子作りに励んでいるらしい。初めはベルなんて「天変地異の前触れじゃね?」なんて冷や汗流しながら言ってたし、スクアーロは「ゔお゙…ぉ、い…」と言ったまま黙り込んでしまった。まぁ、今となっては皆でわくわくしながら待ってるんだけど。ルッスだって初めこそ「一体どうしたの!?」とあたふたしていたけど今となっては「あら、もうすぐ出来るわね〜♪」とくねくねしながら喜びというか、興奮?を表現している。そしてチョコの匂いに釣られてマーモン、誰もいないことに不審を抱きレヴィがやってきた。ちなみにボスが作ってるって言ったら、当たり前だが二人ともガチでびびってた。
「出来たぞ」
数分後、ボスが普通に皿を持って登場した。多分カップで作ったのだろう、綺麗な形のプリン型。ご丁寧に生クリームとミントまで添えてある。ってかエプロン似合うな、ボス。いや、それより。
「…食べたいっす」
「冷める前にさっさと食え」
「ボス!俺も食べたいー!」
「あ?そこに置いてあるだろうが。好きなの取れ」
「やった♪」
ベルより一歩出遅れて、立ち上がるタイミングを逃した。ありがたいことにボスにフォンダンショコラとスプーンを手渡されたから万事解決。上にホワイトチョコで"HAPPY BIRTHDAY"と綺麗な筆記体で書かれてあった。わざわざ俺の出身国の言語で書かれてあることに感動。今まで貰ったプレゼントの中で、何よりも嬉しい。割るとトロッとチョコレートが流れて、それはもう例えようもないくらい良い匂いが立ち上る。ちょうど皆も食べ始めたようだし、俺も一口すくって口に運んでみた。
「…ヤベェめっちゃ美味い…涙出てきた…超嬉しいです…!」
「ムム…金を積めるレベルだね、これは」
「ヤッベ、超美味しいんですけど!」
「相変わらず上手いなぁ、XANXUS」
「何だよお前食ったことあんのかよ羨ましいぞコンチクショー」
「流石だボス!」
「ん〜何コレすっごく美味しいわ!嫉妬しちゃうじゃないの〜!」
皆がそれぞれに感想をもらす。下手なプロなんかよりずっとうまい。ボスが作ったからっていうのも理由の一端に含まれているだろうが、そこが一番大事だ。ボスも自分で食べてみて、「まあまあだな」と言っていた。…まあまあのレベルが高すぎです、ボス。
しあわせな日
「あ〜ヤベ、今なら幸福で死ねるよ俺」
「ししっ、やっすい奴」
「いや、むしろ高いだろぉ」
「スクアーロの言葉遣いを今更指摘するのもおかしな話だけど、全く、本当だよ」
「ゔお゙ぉい!!どういうことだぁ!!」
「んもうっ、煩いわよスクちゃんっ!」
「るせぇぞ、カス共」
「全くです、ボス。…特にそこのカス鮫」
「っテメェにだけは言われたくねええぇぇ!!!」
いつにも増して賑やかな日。幸せな俺のたんじょうび。