小説@
□前夜祭
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自分で言うのも何だが、私は昔から要領が良かったのだと思う。何をしてもすぐに出来るようになったし、まあ、だからこそ本気で打ち込めることは無かったに等しい。それが原因かどうかは分からないが、トップに立とうと考え出したのはわりと早い。少なくともそれが達成されるまで、やり込むことは出来るのだから。それに壁は高いほど、やりがいがあるだろう?…もっとも、一度上に立ってしまえば興もすぐに削がれていってしまったのだが。機関に入ったのも、同一の理由だと思っていい。
「それはそれは、さぞ羨望と嫉妬の眼差しが凄かったんじゃないか?」
「表面上だけだろう。…ロイヤルストレートフラッシュ、私の勝ちだな」
「……………」
ルクソードとマールーシャはポーカーに興じていた。思い返してみれば随分と久々な気もするが、何のことはない、ただの日常だ。違いがあるとすれば、マールーシャが必要以上に自身のことを語っているということか。
ルクソードがカードを手に取り、繰る。もう一戦。
「それで、今の話が本当ならば、いつまでもこの位置に甘んじているというわけではないのだろう?」
「勿論。今はあくまでもトップに立つまでの前戯、それまでの退屈しのぎにすぎないさ。そろそろこの位置に落ち着いているのも、飽きてきた頃だ」
「そうか。…ロイヤルストレートフラッシュだ」
「…イカサマを使っただろう」
「当然。ゲームで負けるのは嫌いなんだ」
「あなたは意外と、負けず嫌いだ」
「お前には負けるがな」
マールーシャは机にカードを投げた。ワンペア。イカサマ無しでも勝てたかどうか分からない。
今度はマールーシャがカードを手に取る。手遊びのように軽々と繰った。
「明日から、私は忘却の城へと赴く。それを足掛かりにと考えている」
「そうか」
「一緒に来ないか?あなたとて、ここににいるのは退屈だろう」
「…悪いな、案外そうでもない。ゲームに携わるものとして、存在し得る限り見届けさせてもらおうと思っているのでな」
ルクソードがカードを広げる。フォーカード。マールーシャは溜め息を吐いた。
「…結局、最後まであなたには敵わなかったな」
マールーシャも手持ちのカードを見せる。ツーペア。低レベルな争いだった。
再びマールーシャがカードを手に取る。繰るわけでもなく、簡単に整えて机の端に置いた。
「明日は早い。興はもうこれで失礼させていただこう」
「ああ…、そうだな」
マールーシャが席を立つ。ルクソードは椅子に座ったまま動かない。回廊が開かれる。
「…私もあなたのように、ゲームと言って楽しめれば良かったのだろうか」
「それは分からないな」
ルクソードの答えを聞き届け、マールーシャがふと笑う。ルクソードはそれにひらひらと手を振って返した。
マールーシャがくるりと後ろを向く。ルクソードは闇の中に消えていくその姿を見送った。
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