小説@

□first contact side byakuran
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せっかくだから世界全部を乗っ取ってしまおう。そう思ってイタリアに来た。やっぱりボンゴレの壊滅は世界征服に必要だからね♪でも…。


「マシマロ、いいのないなぁ」


あのふわふわの塊。あるにはあるんだけど、どうも僕の好みとは合わない。やっぱりマシマロは日本のがいいな。今度取り寄せてもらおう♪
そうと決まれば早く帰って正チャンに頼まなくちゃ。また怒られるかもしれないけど、仕方ないや。


「……ん?」


ふと目についたステンドグラス。何の捻りもない、マリアが赤子のキリストを抱いているデザイン。それこそ、どこにでもあるようなもの。だけど無性に、綺麗だと思った。見れば見るほど何の変哲もないガラスなのに。気になって周辺を探るように見回すと、これまたありふれた十字架を発見した。


「教会…かな?」


面白いかもしれない。こんなスラムに近い場所に、しかもこんな小さな敷地面積で、教会だなんて。建物の外装からして、ここは入口の反対側。向こう側にまわるにしても、さして労力は使わなくて済むだろう。どうしようかな…でもやっぱり面白そうだから入ってみよう♪
入口の扉は建物の外観よりも古びて見えた。扉に手をかけると、予想よりも遥かに軽く、きぃ、と小さな音を一つだけたてて開く。扉の隙間から淡い光が漏れる。何だろうと視線をあげると、最初に興味の対象となったステンドグラスが目に映った。神々しいまでの美しさに、一瞬言葉を忘れて見惚れる。ただの、マリアがキリストを腕に抱いている絵なのに、どうして、ここまで。


「おや、こんばんは」


声をかけられて、はっと我に返る。逆光で少し見え辛いが、外ハネの髪の、年若い男だ。慈愛とかそういうものとは違う、けれど限りなく穏やかな微笑みを浮かべて、椅子に座っていた。
どの世界にも暗黙の了解というものがある。例えば人体実験がその最たるものだ。賄賂の渡し方とかもね。だから見たそれを瞬間に理解した。この人物はこの世界のそれだと。やろうと思えば簡単に傷つけれるし、殺せる。それをしたからといって面倒臭い報復も何も無い。だけど、それはしてはいけない。漠然と、確かにそう感じた。


「やぁ♪君が神父かい?」


「えぇ、そうですよ」


「似合わないね、その神父服」


「よく言われます」


困ったような、けれど全く雰囲気を崩さない微笑み。不思議なことに全くと言っていいほど不快感は感じない。


「ねぇ、何か歌ってよ。ここ教会なんだし。…そうだなぁ、『ハレルヤ』なんてどうかな?あ、伴奏はなくていいから」


「わかりました」


一泊置いて、息を吸う音。一瞬の空白の後、少し高めのテノールが響く。音量はたいしたこともないのに、声はしっかりと安定していた。ふと視界の端に小さなオルガンが映る。歌えるということは、あれで伴奏を引くのだろうか。聖歌と言うに相応しい歌を聴きながら、ふとそんなことを考えた。


「…すみません、何分、一人で歌うものですから」


「ううん、素晴らしかったよ。…すごく感動した。涙が出るほどにね」


聖歌。聖なる歌。
いつにも増して感情が穏やかに凪いでいるのに、何故か涙が出てきた。自分でも少しビックリしたけど、素直に感動からくる涙なのだと分かった。袖の端で目元を拭う。穏やかな感動なんてものがあるなんて知らなかった。


「ありがと♪初対面なのにワガママ聞いてくれて」


「いえ」


「お代がわりに、これ、寄附するよ」


カードを手渡す。お代として十分に足りる額のはずだ。口座なんてまた新しく作ればいい。…正チャンには怒られるかもしれないけど。神父は少しだけ驚いた表情をしたけど、すぐにそのカードを受け取った。


「ありがとうございます」


穏やかな微笑み。それに僕も少しだけ笑った。
…そろそろ本気で帰らなくちゃいけないかな?あんまり遅くまでふらふらしたら、また正チャンの腹痛の原因になっちゃう。


「今日はいいものを聴かせてもらったよ。ありがと♪」


不思議と名残惜しさは無い。神父に背を向ける。


「あなたに神の御加護がありますように」


後ろから聞こえた言葉。聖職者の常套句。だけど他の教会で聞くそれとは随分と違う響きに聞こえる。とりあえず後ろ手に手を振って返しておいた。



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