小説@
□全戦全敗
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「ベルー」
「んー?」
窓から明るい光差し込む中、俺達は優雅にチェスを楽しんでいた。
「お前さー、本当にゴキと間違えて兄貴殺したワケ?」
コトリ。俺は駒を動かした。
ベルは、んー…と考えるように声を洩らす。
「正確には、違うけど?」
コトリ。ベルも駒を動かす。
そして、どうかした?とその長い前髪の奥から俺に視線を向けた。
「いや、さすがにヒトとゴキを間違えるだなんてどんだけ視力悪ィんだよと思い」
コトリ。俺はキングを動かす。
ベルはうしし、といつものように笑って兵隊を動かした。
…あ、一個取られた。
「っつーかさ、そんなに視力悪いんだったら、まずその時点でゴキブリとか見えてなくね?」
ベルは心底おもしろそうに笑う。
「じゃあ、何?」
コトリ。俺も負けじとベルの駒を一つ取った。
「……知りたい?」
ベルが悪戯っぽく笑う。
俺はうん、と即答した。
「ただ単に兄様のことゴキブリ並にウザイと思ってただけ。はい、チェックメイト」
コトリ。余裕の表情で、ベルが駒を動かす。
俺のキングは追い詰められた。
「…それはまた、単純明確な回答で……」
俺はなんとか逃げ道はないかと探す。
しかしさすがはベル。そんな余地を与えてくれるはずもなく。
俺のキングは、完璧に包囲されていた。
「ちぇー…負けた!」
俺が素直に負けを認めると、ベルは嬉しそうにうしし♪と笑った。
「……何かその笑い方ムカつく」
「うしし♪だってオレ王子だもん」
「関係ねーよ。っつかワケ分かんね」
ガチャガチャと大雑把に片付ける。
グッドタイミングで、ルッスからお茶にしましょう、とのお声がかかった。
「いぇーす。分かったー」
「うしし。じゃ、オレ先に行ってるから」
「ちょ、お前も片付けろ」
「嫌だよ、だってオレ王子だもん。王子は片付けしなくてもいいんだよ」
「知らねぇよそんなコト」
俺のささやかな言葉の反抗も虚しく、ベルはさっさと扉の向こうへと消えていった。
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