小説@

□全ては貴方の手の内に
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ボスは格好良い。男の僕から見ても、文句なしに格好良い。何がと問われたら、全てと答える他はない。


(ボス……)


最近、何とはなしにぼうっと過ごしていると何時の間にかボスを目で追っていることが多い。何故なのかと言われたら、それは多分、ボスに対する僕の感情が少し特殊なものだからだろう。何かこう表現するとレヴィみたいで気持ち悪いのだが、多分僕のはそれよりひどい。


(にしても…すごい…)


赤い目。引きつれた傷。
普通なら醜いものの象徴にもなり得るのだろうが、それがこの男の内にあると全てが「格好良い」の要素に変わる。もうヴァリアークオリティーならぬボスクオリティーだとしか思えない。彫りの深い顔立ち、何気に厚めの唇、細身に見えて実は以外と体格も良くて筋肉もかなりついていたりだとか…ってアレ?何か僕変態じゃね?


「…何ガン見してやがる」


そろそろ僕からの視線が欝陶しくなったのか、思いっきりボスに睨まれた。その時に僅かに目が合い、また格好良いなあとぼんやりと思う。


「あー…何でもないです」


一応形式的にそう返してはみるものの、視線をボスから外す気なんてさらさらない。これ以上何か言う気もない。気に入らなければ殴ればいいし、最悪殺されたって構わない。
僕の心の内を悟ったのか、ボスはそれ以上何も言わずに視線を書類へと戻した。


「ボス」


直後、僕の口から音が洩れる。それは無意識のうちに行われた行為で、慌てて何か続きとなる言葉を言わなければと焦った。


「うあ、その…僕、殺されるならボスがいいです」


言った瞬間、後悔した。馬鹿、僕のバカ。引かれた。絶対今引かれた。
その続きとなる言葉は全く考えてない。というか焦って本音が洩れた。どうしよう、ボスの方、向けない。今の発言取り消せないかな。…無理だろうけど。


「知ってる」


一人下やら横やらを向いて落ち着きの欠片もない動作を繰り返していると、不意にそうボスの声が聞こえた。喫驚して思わずボスの方を向くと、ばっちりと目が合ってしまった。うぅぅ、気まずいのに…。


「あの、ボス…」


「と言っても、テメェを殺す気なんてさらさらねぇがな」


「…え……」


ボスは静かに立ち上がる。な、何、何が起こるの。ボスが近付いてくるのが分かって、僕は慌てて視線を逸らす。逃げたいけどそれは適わなくて、ついにボスが目の前に来た。落ち着き無くそわそわと視線を泳がせていると、ガッと前髪を捕まれて強制的に立たされた。身長がそこまで高くない僕は必然的にボスを見上げる形になる。ボスは楽しそうに僕を見下ろしていた。っていうかこれ、結構痛いんですけど…。


「痛い、ボス」


「テメェは殺さねぇ。俺が生きている間に死ぬことも許さねぇ。テメェは俺のものだ」


至近距離で視線が絡まったまま、ボスは僕に言い聞かせるようにそう言った。痛みと共に、その言葉が脳内にインプットされていく。…今更言われなくても、自覚はしてるつもりだったんだけどなぁ。
いきなり前髪を離されて、思わずバランスを崩して膝を着く。もう少しソフトに出来ないのかな、という意味を込めてボスを見上げた。が、満足そうに僕を見下ろしているボスを見て、僕は何も言えなかった。


「はっ、テメェはそやって一生俺の下で這い蹲ってろ」


どこぞの鮫以上に高慢な瞳で言われ、思わず頷かずにはいられなかった。











全ては貴男の手の内に

後にも先にも、きっとこれ以上の人なんていないだろうから。

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