月の夢
□第五章【再会】
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(このオレがこうも容易くかわされるとはね…気に入ったよ姫君)
「…オレの負けだね。謎めいた女は嫌いじゃないよ。なぁ…姫君はその桜から何か感じたかい?」
楽しそうに瞳を輝かせて笑う少年に白桜は落ち着いた声で答える
「確かにこの季節に花をつける桜は不思議なモノね。まるで…時を忘れてしまったみたい――」
「時を忘れた…ね。オレにはさ、誰かを待ってるように見えるんだ。夏の暑さにも、冬の凍てつくような寒さにも、決して花を散らす事なく…まるで“此処に居る”って、声にならない声で叫んでるみたいだ――」
“此処に居る”
それはまさしく白蓮がこの桜に宿した想いだろう
思わず桜を見つめる白桜の瞳が和らぐ
「そう、かもしれないわね。」
(200年…こうしてわたしを待っていてくれたのね――。ありがとう…)
そんな白桜を見つめ何かを確信したように少年はニッと笑った
「それで、探し物は見つかったのかい?」
(フフ、流石は熊野別当、といったところかしら)
「えぇ、今見つけたところよ」
ヒラリ、と純白の花弁が一枚、二人の間を舞う
白桜が手を出すと、花弁はその掌におさまり淡く光を発した