月の夢
□間章【温かなモノ】
3ページ/10ページ
「まぁそのようなものですね」
ところで…と重衡は黒い笑みを増し将臣に訪ねる
「還内府殿は白桜の君とお二人きりで何をなさっていたのです?」
(こいつ…目が笑ってねぇι)
「いや、何もしてねぇけどよ…」
つぅっと、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた時、白桜が口を開いた
「わたしは敦盛殿に笛を奏でてもらった帰りに通りかかっただけよ?そしたら将臣が紅葉を眺めて憂いていたから…ね?」
先程のお返しだ、とばかりに楽しそうに笑う
が、重衡と知盛は“将臣”という言葉にピクッと頬を引きつらせた
「ほぅ…お二人は知らぬ間に随分と親しくなられたようで?」
「是非ともじっくり聞かせて頂きたいものですね」
普段聞き慣れない知盛の丁寧な言葉使いと、重衡の氷点下の微笑に将臣の顔が青くなる
(マジで勘弁してくれ!)
「い、いや…お前らだっていつまでも殿付きで呼ばれんのヤだろ?な?」
必死に誤解を解こうとする将臣を他所に重衡は白桜の手を取った
「白桜の君…どうか私の事も“重衡”とお呼び下さい」
瞳をうるうるさせ見上げてくる姿は、まるで捨てられた仔犬のようだ
「おい、知盛!お前もそう思うだろ?」
「………」
知盛に同意を求めた将臣だが、彼は何も言わずにプイッとそっぽを向いてしまった
(こいつ…拗ねてやがるι)
「兄上、素直になられたほうがよろしいのではないですか?」
いつの間にか余裕の笑みを浮かべている重衡を横目で睨み、暫く沈黙した後に知盛はポツリと呟く
「……殿はいらん…」