月の夢
□第一章【月夜の誘い】
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十六夜の光に照らされた桜の下に、男はいた
白銀に輝く髪
紫苑の瞳
感情の伺えないその瞳は桜を見上げ何を思うのか…
(今宵は十六夜、か…。宴に飽いて出て来たが……)
妖の一つでも出てくれば暇つぶしにもなるだろうに――
(何も起こらぬ、か……)
何か予感めいたものを感じ、この神泉苑まで出向いたものの、辺りは静寂が立ち込めるばかり――
そんな暗闇の中、男に近づくもう一つの影があった
同じく白銀の髪に紫苑の瞳
まるで水面に映し出されたかのように瓜二つの姿
「兄上、こちらにおいででしたか」
「…重衡、か」
重衡、と呼ばれた男は月明かりに照らされた桜を見上げ、兄…知盛に視線を戻した
「桜と逢瀬とは…珍しいですね」
フワッと柔らかい笑顔を浮かべ、今度は月を見上げる
「クッ…ならばお前はあの十六夜と逢瀬、といったところ…か?」
知盛は視線を移すことなく微かに唇を歪めて笑った
「あぁ…確かに今宵の月は妖艶なまでに美しゅうございますね。」
それに…と重衡は言葉を続ける
「この桜もまた…神々しいまでに純白の光を放っていて、まるで十六夜と桜の魔力に魅せられてしまいそうになる―」
(月の魔力…か――そんなものがあるなら、この退屈な日々を覆してもらいたいものだな)
そんな事を思っていた時だった――
シャラ…―ン
「「…?」」
静寂を裂き、微かに聞こえた音
シャラン――
今度はハッキリと響いたその音に二人は眉をひそめ辺りを窺った
「…今の音は一体…?」
「さぁ…な。妖ならばいい退屈凌ぎになる…」
知盛は腰に差した剣の柄に手をかけながら言った
シャラン――
三度目の音が聞こえた時、突然月が光を増したかのように輝き、一筋の光が二人の目の前にある桜に向けて放たれた
すると桜は純白の輝きを増し、眩しさのあまり二人は目を細めた
パァ―――…ッ
光は球体となりやがて小さくなって弾けた
純白の花弁が漆黒の闇夜を彩るかの様に舞い散る
「…!兄上、あちらに人がっ」
光が消え視野が戻った二人が見たもの――
それは、純白の花弁の褥に横たわる少女の姿だった