月の夢

□第二章【目覚め】
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戦場に散る鮮血のように鮮やかな赤――


開かれた瞳はまさにその色だった


交わる紫苑と赤の視線

深い瞳にお互いが吸い込まれそうな感覚に陥る

「………」

「………」


暫く続いた沈黙を破ったのは紫苑の男


「漸くお目覚めかな、お嬢さん…」

低く艶やかな声が静かに鼓膜に伝わる


「……だ、れ――?」

桜の封印を解き、目覚めるのは神泉苑のはず

しかし目覚めた場所は見知らぬ部屋の中…

自分は何処にいるのだろうか


そんな事を不安定な覚醒状態で考えていると、再び男が言葉を発した


「俺は平知盛。ここは六波羅…平家の邸だ。」

「六波羅…平家…?」

どうやら京にいることは間違いない

しかし何故…

この男は平知盛と名乗り此処は平家だと言った


それが事実なら何故自分はその邸にいるのだろう?

(…応龍が消滅した影響で結界が解けてしまったの?)

「さて…桜から現れたお嬢さん…お前は何者だ?」


その言葉に今度こそはっきり意識が覚醒する

射るように真っ直ぐ向けられる眼差しに、僅かに目を見開いてしまった

「………」


見られていた

まさかあの場に人がいたとは…


今ここで自分の正体を明かすわけにはいかない


(どうする…?)


するとこちらの様子を窺っていたもう一つの気配が動いた
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