月の夢

□第四章【過去の呪縛】
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その日は白桜が目覚めてから二度目の十六夜


彼女は一人、庭で月を見上げていた


そこへ背後から近づいてくる一つの気配


「…神が月に何を請う?」

それはあの日、目覚めと共に聞いた声


「…貴方にはそんな風に見えたのかしら、知盛殿?」


背後に立つ知盛を振り返ることなく問い返す


「さぁ、な。お前はその鮮血のような瞳の奥に何を隠している?」


この男は、何故こうも全てを見透かしているような事を言うのだろうか?


静かに振り返ると、絡み合う紅蓮と紫苑の視線


(あの日と同じ…)


隠しているわけではなく、話す必要がないのだ


「残念だけど…貴方の期待に添えるような話じゃないわ」

神の血に濡れ、呪われた身とその罪など…



「話す気がないのなら剣を合わせて感じるまでだ、が…お前は剣を持たないのか?」


白桜が現れた時も今も、彼女は武器らしい物は持っていなかった


(武将らしい考えね…)

それは言葉などより多くの事を語ってくれる

「わたしの剣…あれは安全な場所に封印してあるの」


「封印?」


「えぇ。あれは多くの神の血を吸った…地上に残していくには危険だから」


「そうか…」


ならば、と、知盛は自分の腰に差してある剣を二刀とも抜き、片方を白桜に投げてよこした


それを使えという事だろうか?


「貴方は…本当に自分の欲望に素直な男ね」

困ったように笑いながらも剣を構える


フッ…と、合図をするかのように二人の間を桜の花弁が横切った
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