月の夢
□第一章【月夜の誘い】
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重衡は突然の出来事にその場から動くことができず、ただ少女を見つめていた
すると何を思ったのか知盛が動いた
手をかけていた鞘から剣を抜き少女に近づく
「兄上!何をなさるおつもりですか?!」
「…あのお嬢さんが何者なのか…確かめようと思って、な」
歩みを止めることなくゆっくりと…知盛は少女に向かっていく
片膝をつきその頬に触れようとした刹那――
バチッ!!
「……?」
伸ばされた手は少女に届くことなく見えない壁に阻まれ、指先に微かな痺れと熱を感じた
「これは――結界、か?」
「結界とは…少々厄介ですね」
知盛の動きが止まったのを見て、重衡も少女の傍に腰を下ろした
「クッ…このように無防備な姿を晒しておきながら触れることを許さぬとは…余程気高きお方のようだな――」
「兄上…。しかし困りましたね。いくら結界があるとはいえ、このままでは魑魅魍魎の餌食にされぬとも言いきれないですから…」
心配そうに重衡が呟く
「…まぁいい、暫しの間月見に興じようじゃあないか――」
知盛は新しい玩具を見つけたかのように楽しそうに言葉を零した
そんな兄の様子に微かな苛立ちともどかしさを感じながら重衡は問う
「しかし…このまま結界が解けなければいかがするおつもりです?」
「フン…解けぬのならば力ずくで解くまで、だ」