月の夢
□間章【温かなモノ】
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不思議な気持ちだった
200年前のあの時とは違い、自分が神なのだと告げても大袈裟に敬い畏まることなく、彼らは普通に接してくれる
「その言葉、ありがたく受け取っておくわ…将臣殿」
礼を言う白桜に、今度は将臣が何かを考え込む顔になってしまった
「お前さ、いい加減その“将臣殿”ってやめろよ」
堅苦しいのは苦手なんだよ、と困ったように言う
「じゃあ…まさ、おみ?」
「あー…ぎこちねぇな、もっかい言ってみろ」
どこか楽しんでいるようなその様子に眉を寄せつつ、もう一度名を呼ぶ
「…将臣」
「おう!上出来だな」
満足げに再び白桜の頭をガシガシ撫でる
「ちょっ…」
(姉貴なんて言ってたくせに、これじゃまるで妹扱いだわ…)
白桜が諦めて肩を落としていると、別々の方向から近づいてくる二つの気配
(あ…)
視界に映ったのは銀色
「あぁ、此方にいらしたのですね、白桜の君」
「えぇ、重衡殿」
にこやかな笑顔を浮かべながら近づいてくる重衡
その背後が黒く見えるのは気のせいだろうか?
そしてもう一方から気だるそうに欠伸を噛み殺して歩いてくる同じ銀色
「よっ、重衡も知盛も何か用か?」
「えぇ、父上が今宵は宴を開くとおっしゃっていたのでお伝えしようと思いまして…」
「宴?あぁ、そういやこっちに来てからずっとバタバタしててそんな余裕なかったもんな」
福原に遷都してからは連日邸の整備やら何やらで、皆せわしなく動き回っていたのだ
「労いの宴、か?」
知盛は濡れ縁に腰を降ろし、さして興味を示すでもなく呟く