「……」


「……おい、いい加減に口を聞いたらどうなんだ」


「……」


「……おい、結弦」


「……」


「……っいい加減にしないと本気で怒るぞ!?」


「今怒ってるのは私です三成さん」




激しい怒りを静かに込めた一言で、その場が凍り付いた。










発端は、豊臣の軍兵が鶴姫ちゃん達のところで乱暴な振る舞いをしたというところからだ。

予言の巫をバカにした豊臣軍に、民は怒りちょっとした騒ぎにもなった。そこは最近戦慣れしてきたがやはり根は純真な鶴姫ちゃんと、丁度鶴姫ちゃんに会いに来ていた孫市姉さん、そして滞在中だった私がなんとか場を収めたのだが、その豊臣軍兵がそれを根に持ったのか、あることないことを吹聴したらしい。

しかも私の名前は一切出さなかったらしく、お陰で三成さんと大谷さんが軍を引き連れてやってきたというわけだ。


いわれのない戦に鶴姫ちゃん達は戸惑ったり憤慨したりで、とにかく誤解を解くべく、三成さんや大谷さんとも親交がある私が孫市姉さんと一緒に軍の船へ行った。


そしたら今度は孫市姉さんを見た兵達が襲いかかってきたものだから大変だ。
騒ぎを聞き付けた大谷さんが様子を見に来たときには、襲いかかってきた兵達の殆どが孫市姉さんの銃で無力化されていたけれど。


そうしてやっと三成さんや大谷さんに孫市姉さんがことの次第を伝えて、発端の兵たちは処罰を受けることになり戦は未遂に終わった……ここまでは良い。


問題は私が未だに怒り燻って、三成さんや大谷さんとまともに口を聞かないでいるせいだろう。



「なんとかならないのか雑賀孫市!?」


「煩い叫ぶなからすめ、自業自得だ」


「何だと!?」


「結弦は女に理不尽なことをする輩が何より好かぬ質故に、今回は逆鱗に触れたようだな」


「刑部……。だから秀吉様や半兵衛様にご報告し、軍の進行も中止したではないか!」


「だからと言って、豊臣が鶴姫達に暴力を振るったことは事実。相当怒ってるぞ、結弦は」


「くぅ……っ、だったら私にどうしろと言うのだ!?」


「自分の部下の不始末など自分でどうにかしろ、からすが」


「まあそう言わずに助言してはくれぬか、我等も結弦に嫌われたままというのは辛い」


「……大谷、貴様が本気でそれを言うと気味が悪いな」


「……自覚はしている」





何やら後ろでこそこそやっているが、私は変わらず船の甲板で膝を抱えているため波の音が邪魔して聞き取れないでいた。

女の子に理不尽な暴力振るうなんて最低! 最低! 最低!
慶次さんや小十郎さんなら絶対そんなことしないのに!
未だに収まらない怒りに悶々する。三成さんや大谷さんが直接的に悪い訳じゃないのはわかってるけど、鶴姫ちゃんは大事な友達だから余計に悶々している。あーもうっ!



「……結弦」


とにかく悶々していた私に、後ろから三成さんが声を掛けてきた。振り向かないでやったけど。


「結弦、その……、す、まなかった」


「……」


「結弦、我等豊臣の軍兵がすまぬことをした。預言者殿のところにも直に詫びを告げに参る故、取り次いで貰えると助かる」


大谷さんが、おそらく口下手な三成さんの代わりにそう言ってくれた。


「……怖い思いしたのは鶴姫ちゃん達だから、私より鶴姫ちゃん達にちゃんとお詫びしてください」


「……わかっている」


三成さんの言葉に、私はようやく顔を向けて、複雑そうな三成さんの手をとった。



「三成さんや大谷さんが悪い訳じゃないのに、口聞かなくてごめんなさい。進軍、止めてくれてありがとうございました」



そう言って笑いかけると、三成さんはなぜか顔を真っ赤に染めて固まって、その隣で大谷さんがやれやれと苦笑して、孫市姉さんはからすめ、と肩を落としていた。



後日、三成さんと大谷さんが沢山のお詫びの品を持って鶴姫ちゃん達に会いに行った。


秀吉様と半兵衛さんには、私からことの次第と、三成さんと大谷さんを叱らないように文を認めて、小太郎さんに届けてもらうようにしておいた。


戦にならなくてよかった!











「石田さんも大谷さんも、結弦ちゃんには敵わないんですねぇ!」


「……!! 黙れ!!」


「直接詫びの意向を示すという孫市の案は正しかったようだな、三成」


「結弦は意味なく意地を張る子ではない。誠意を現せば納得する」


「流石は孫市姉さまです!」



「刑部、もう二度と結弦を怒らせるようなことが無いようにしろ……!」


「……善処することにしよう」










盤上遊戯−伊予−










(女の子まじ男前)





2011.12.

Dr




.

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ