白虎の戯れ
□★私を救わぬ神に裏切りを
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良く晴れた日曜日、早朝からミサの為準備に明け暮れている神父が二人。
「…鷹通、そろそろ着替えて来て下さい」
準備もあらかた片付き、幸鷹は漆黒の法衣の上に白のコートを羽織り、聖書を並べていた鷹通にそう告げた。
「あ、はい」
最後の聖書を机に置き、鷹通は幸鷹に返事してから踵を翻した。
瞬間、教会の扉が僅かに開きそこから影がすり抜けた。
「…手伝おうか?」
「?友雅殿…!?」
影は鷹通の背後で止まり、鷹通を後ろから羽交い締めにした。
「吸血鬼がミサの手伝いなど聞いた事がありませんが、ね」
幸鷹は慣れているのか驚きもせず溜め息混じりに皮肉を吐く。
「悪いが私が手伝うのは鷹通の着替えだよ?幸鷹君。」
「えぇっ!?///」
驚き顔を赤らめたのは言葉を向けられた幸鷹ではなく、鷹通。
幸鷹は「あぁ、そうですか」と言って明後日の方を向いた。
「相変わらず可愛いね、鷹通…このまま浚ってしまいたいよ」
さら、と鷹通の髪に五指を絡め、触れるように口付ける。
小さな爆発音が響き、鷹通の顔が茹でダコのように真っ赤になる。
「とっ、友雅殿///」
咎めるように名前を呼んでも当の本人はまるで気にせず、寧ろ愛しい鷹通から呼ばれた自分の名前に微笑みを増した。
「連れて行くのはまぁ、いいとして…ミサが終わってからにしていただけますか?一人で数百人を捌くのは正直キツいので」
「幸鷹さんまでっ!!」
事実上保護者にあたる幸鷹がいともあっさり許可を出すものだから、鷹通も大慌て。
「あぁ、当然ですが鷹通が『行く』と言うなら…ですよ?其処ら辺はわきまえていますよね、友雅殿?」
「勿論さ。ちゃんと此処に送り届けるよ。次の日に」
さらっと付け加えられた言葉の意味を瞬時に読み取り、幸鷹は頭を抱えて「はいはい、ご馳走様です」と呟いた。
一方鷹通はまるで分かっていない。不思議そうな表情で辺りにクエスチョンマークをばら蒔いている。
「鷹通、着替えて来て下さい。彼の相手は引き受けますから」
「は、はい…」
似非的な笑顔にもコロッと騙され、鷹通は着替えの為に教会の奥へと小走りで向かった。
「相手、とは何のかな?」
「無論話の相手ですが、他にありますか?」
鷹通(仲裁役)のいないこの空間には早くも黒い空気が漂い始めている。
「鷹通と同じ声でそんな冷たい事を言われると…趣はあるが少し寂しいね」
綺麗に切り揃えられた緑から愛しい恋人と良く似た山吹に目線を移す。
「声フェチとは知りませんでした。何ならその鷹通と同じ声で聖書でも諳じて差し上げましょうか?」
「……。遠慮するよ…」
仮にも魔物。
他の神父なら未だしも、幸鷹の読む聖書の言霊はかなり堪える。
触れようとしていた手を引っ込め、恋人の帰りを切望した。
「友雅!!私の幸鷹に何をしてる!?」
バンっ!!
と当然大きな音を立てて入ってきたのは翡翠。
「おや、遅かったね翡翠。」
「私もまさかこんなに登場を遅らせられるとは思わなかったよ。何者かの陰謀を感じざるを得ない」
翡翠は落胆の溜め息を吐いて二人に歩み寄る。
かつかつと静かな教会に足音が響き渡った。
「ならいっそ来なければ良い。というか遅いというほど遅くもないですし」
「今日も手厳しいね、君は」
「お褒めにあずかり至極光栄です、翡翠『殿』」
「…本当に厳しい」
抱きしめようとした手を名前に『殿』を付けると同時に強く叩き落とされ、やれやれ…といった風に肩を竦めた。
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