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□姉貴
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気のきいた事のひとつも言えずに修兵に背中を向けて走った。
どこをどう走ったのか、普段は歩かないような場所に迷い込んでしまった。
「お前こんな所で何してる?」
『阿近さん‥阿近さん、助けて』
「仁美じゃねぇか‥。泣いてるのか?何があったんだ?話してみろ」
迷子になった私に声をかけてくれた阿近さんに抱きついて泣いた。
理由は言わなかった。
いつまで経っても落ち着かない私を阿近さんは自宅に連れて行ってくれた。
「落ち着いたか?」
抱きしめていてくれた事にその時初めて気付いた。
『ごめんなさい‥』
「お前が泣くなんて余程の事なんだろ‥話くらいはいつでも聞いてやるから辛くなったらここに来ればいい」
『もう‥終りだよ。どうにもならない‥どうしたらいいのか分からない‥』
「男か‥。好きな男に恋人が出来た‥そんなとこか?傷付いたお前を俺が慰めてやろうか?」
阿近さんは何でもお見通し。
いつでも何も言わなくても分かっちゃう。
「図星‥相手はあいつか‥」
慰めてやろうかって?
阿近さんが言っているのはきっと‥。
ただ、じっと見つめられて言葉を落とされるのが心地よくて‥
「抱いてもいいか?」
そう言われる時には首に両手を絡めていた。
優しいキスをくれた。
大人なんだって思った。
傷付いた私を抱く阿近さんはどこまでも優しかった。