東方空霊録
□序章ー蒼の少女と黒の少女ー
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時代は巡り、人は巡る。
ーー今から始まるのは空色の少女が魔法使いと至った後の幻想郷
一人の人間の少女が人と妖怪達と過ごす一つの新しい物語ーー
ーー人里
ガヤガヤ…
「おばちゃーん!お団子一つ、下さいな!」
人里でもどこか寂れた感のある団子屋にて…見慣れない、明るい少女の声が響く。
その服装は赤を基調にした…何処か、人里に置いては浮いているように見える服装。彼女は元気に言った後、椅子に座る。
「おやおや…随分と元気な子だねぇ…見慣れない顔だけど、人間かい?」
「そりゃあもう、歴とした人間ですとも。毎日地獄を見てますが!」
「地獄…?なんのことだい?」
「いえいえ、こちらのお話です!」
黒髪をポニーテールにした、眼鏡を掛けた少女は笑顔で言う。
「ちょっと待っておくれよ…桜ー、団子一つ、お願いするよー」
「…桜?娘さんですか?」
「いえいえ、そういうわけじゃないんですけど…最近、ウチを手伝ってくれる若い女の子が居てね…凄く、助かってるんだよ…うちは、見ての通り閑古鳥が鳴いてるけど…それでも、こう年を取ると色々大変なんだよねぇ…」
年老いた老婆はそう言うと、ごゆっくり…と呟いて、店の奥へと消えていく。それと入れ替わるように…
「…お待たせしました。お団子一つ…三色団子で良いのよね」
蒼色の髪の何処か大人びた雰囲気の少女が、お盆を片手に現れる。
「うわぁ、美味しそう!なんでこんなに美味しそうなのに、客が着いてないのかしら」
「…悪かったわね、客が着いてなくて」
「あ、いえ!別に馬鹿にするつもりで言った訳では」
黒髪の少女が慌てて弁解するのをみて、蒼髪の少女がクスッと笑う。
「気にしなくて良いわよ…前、座って良いかしら?」
「良いですけど…お仕事は?」
「今日はもう、終わりよ。お客様が来るのも珍しい店だから、専らお婆ちゃんの周囲の手伝いがメインなの」
「へぇ〜…」
「他にも、便利屋みたいなことをしてるから…もし、貴女も何かあったら頼ってくれていいわよ」
「なるほろー…ふぁーい、わはりまひたー」
モグモグと団子を頬張りながら、黒髪の少女は相槌を打つ。
「(ハムスターみたいで可愛い…)…見慣れない顔ね。貴女、何処から来たの?」
「(ゴクンッ)んー?ちょっと遠いところから、ですかねぇ」
「遠いところ…?」
蒼髪の少女は首を傾げる。まぁ、いずれわかりますよ…っと言って、黒髪の少女はズズッとお茶を飲む。
「…よく分からないけども、贔屓にしてくれると嬉しいわ。お婆ちゃん、貴女みたいな子が来てくれると喜ぶと思うから」
「わかりました!こんなに美味しい団子が食べられるなら、毎日来ちゃいますよー!」
努めて明るく笑みを浮かべて言う黒髪の少女に、蒼髪の少女は落ち着いて、しかし何処か嬉しそうに微笑み、黒髪の少女に問いかける。
「…ねぇ、貴女、名前は何て言うの?」
「ふぇ?名前、ですか?」
「今時、そんなに明るい外来人だなんて、珍しいから興味が沸いたの」
「あれ、何故、私が外の人間であると…?」
「人間が遠いところから来たとなったら、他に選択肢はないでしょう?」
「いやぁ、それもそうですが…実は、住んでる所も遠かったりするんですよね〜」
「…?それって、どういう…」
蒼髪の少女が続けて尋ねようとしたがーー
ガラガラ!!
『さ、桜!桜ちゃんはいるかい!!』
…そんな、悲鳴のような男の声に遮られる。
「…どうしましたか?」
『れ、例の、よ、妖怪が、里のすぐ近くに…!』
「…!…わかったわ」
「…妖怪、ですか?」
黒髪の少女の問いに、コクりと頷いて蒼髪の少女は割烹着を脱ぎ捨てる。
「ちょっと行ってくるから、食べ終わったらそこに置いておいて…危ないから、見に来ないように」
そういって、蒼髪の少女は慌てて外へと飛び出して行く。
黒髪の少女は一人、ポツンと取り残されて…
「…妖怪、ねぇ」
そう、一言呟いた後…少し遅れて、外へと歩いて行った。