銀色

□翻る金魚の尾
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「(ヤバイよ、マジやばい)」


行き交う人々の賑やかな(というより五月蝿い)声なんて耳に入らないくらい、俺は動揺していた
何故って?
それは露店を楽しそうに眺めながら隣を歩くこいつのせい

近くである夏祭りに、一緒に行こうと誘ったのは俺だった
彼女は快くOKしてくれて…そこまでは良かった
しかし予想外の事態が一つ


「(まさか浴衣を着て来てくれるなんて…ッ!)」


悪いわけじゃない、むしろものすごく嬉しい
しかし似合ってて可愛すぎる
白地に涼しげな青のグラデーションの中に花と金魚が泳ぐ
ゆるく結い上げられた髪
いつもの制服姿とは違う彼女に、心臓は五月蝿くなるばかり


「坂田くん」
「へ?!な、何?」
「坂田くんって甘いもの、好きだったよね?」


そう言って彼女が指差したのは屋台の明かりに照らされてきらきら光るりんご飴
食べない?と小首をかしげて聞かれては断れるわけもなく(まぁ断る気もないけど)
2人でりんご飴を買って(奢るって言ったのに頑として奢らせてくれなかったっていうオプション付き)齧りながら歩く
浴衣と似た金魚柄の巾着がゆらゆらと揺れている
巾着から彼女へと視線を移すと、目が合った


「―――、」


言葉が出かかったとき、大きな音と共に開く大輪
夏祭りの主役の花火が打ち上がってるというのに、俺は彼女から目が離せなかった
彼女は時々目を逸らすけれど、すぐに様子を伺うように俺を見る
より近くで花火を見ようと移動する人々の喧騒
それさえ別世界に思えた


「綺麗だな、花火」
「うん」
「…今日はありがと、一緒に来てくれて」
「私こそ、ありがとう」


花火はまだ上がり続けているけれど、終わりのような会話
微笑む彼女の目が、わずかに切なさを孕んでいるように見えた
まだ離れたくない
想いが大きくなる


「―ちょっと離れたとこに、穴場見つけてあるんだ」
「え?」
「花火、見えにくいと思って」
「人いっぱいだもんね」
「ただ、その…2人きりに、なっちまうと思うけど…」
「…うん、いいよ」


ちいさく はにかむ
聞こえるんじゃないかと思うくらい、胸が鳴った
彼女の手を握って、早足に歩く
ホントは走ってでも行きたい気分だったけど、彼女は浴衣だ
付いてこられる速度を考えて進む
それでも下駄がからころと鳴るたび、金魚を描いた裾が泳ぐように大きく翻った

ふいに、繋がれた手にきゅ と控えめに力が込められる
終始五月蝿かった心音が、ひときわ騒いだ



ひらりひらりと翻る浴衣
俺と同じように、じんわりと熱を帯びる手


この手の熱は、夏のせいだけではないと思っても許されるだろう












金魚の尾







(恋、だと)
(思うのは傲慢だろうか)





――――――……


ソーダ水さまへ

生徒銀時でした。爽やかで甘酸っぱい感じになってたらいいな



09/07/10 椎名 律
(Thanks!→藤田 麻衣子/水風船)

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