0-3外伝

□萩村さんの悩み
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いつものようにHRが終わり、校内の見回りを終えて、私は帰路につく。

「おぉ、萩村。帰るのか?じゃーな」

「…先生、何してるんですか?」

下駄箱で上履きから靴へ履き替えていると、不意に後ろから声をかけられた。

声の主は緋藤先生。

「いや、アンケートハガキ落ちてなかったか?」

「はがき、ですか……?」

先生は頷くと、手に持っていた雑誌を開いて私に見せてくる。

「このゲーム機が狙い目だ」

キラキラと目を輝かせながら言った。この人は仕事中に何をしているのだろうか。

「……見てないですけど。見つけたら焼却炉に放り込んでおきましょうか?」

「いや、届けてくれると助かるんだけど………じゃ、気をつけて帰れよ」

「はい。さようなら」

ひらひらと手を振る緋藤先生に背を向けるとそのまま入り口へ向けて歩く。

少し進んだ所で足を止め、もう一度緋藤先生の方を向く。

言おうか迷ったが、言う事にした。

「…秋持悠一が拾っていました」



その後突然の猛ダッシュを見せた緋藤先生に驚きながらもその場を後にした。

秋持君には悪い事をしたかな、などと考えているウチに家の近くまで来ていた。

そこで私は一度電柱の陰に隠れる。

少しだけ顔を出して辺りを見回す。

「………いない?」

周囲を見回したが特に誰も居ないようなのでホッと安堵の息をついた。

「よかったぁ…」

「何が?」

ビクッと身を縮ませながらも振り返るとそこには小さな少年達が居た。

「遊ぼーぜ!!唄ねーちゃん!」

5人の少年達を見て、思わず顔が引きつってしまう。

「…きょ、今日は…」

「女の人の日!?」

「ち、違う!!」

思わず大きな声を出してしまった。

一体どこでそんな事を覚えるんだろうか。小学生なのに…

「じゃぁ遊ぼうよー!」

「……今日は…」

「またスカートめくっちゃうぞ!!」

少年達がややいやらしい手つきをする。

スカートをしっかりと抑えてまくられないように注意しよう。

「…うぅ、白いパンツのおねーちゃんが遊んでくれないよう……うう…白いパン――」

至らん事を叫びそうになった少年の口をしっかりと押さえつける。

「わ、分かったから…変な事言わないで」

「今日は縞々なんだ…」

「え?」

ゆっくりとスカートのほうに目をやると、後ろから思い切りめくられていて中が丸見えだった。

少年の口を両手で押さえたのが失敗だった。

「〜〜〜〜〜!!!」

「えい」

「ひゃぁ!?」

いきなりお尻を叩かれて思わず変な声が出てしまった。

「唄ねーちゃん、ひゃぁ!?だってだってー!かわいいー!」

「張りがあった」

「縞々」

「縞々」

「縞々」

ブチン、とさすがに頭の中の何かが切れた。

握っている拳がプルプルと震えているのが自分でも分かる。

「…怒ってる?」

少年の問いに、私はゆっくり笑顔で答えた。

「あれだけされて怒らない女の子って、いる?」

「ですよねー」

途端に振り返ってダッシュを始める少年。

走ってそれを追いかける私。

全員捕まえるのにそれほど時間はかからなかった。



「ごめんなさい」

捕まえた5人が揃って頭を下げた。

何故か、私が悪い事をしてるように感じてしまう。

「…もうしない?」

「しない!」

「…よろしい」

満足した私は今度こそ家に帰る。

「唄ねーちゃん!!」

大きな声で呼び止められる。

振り返ると、少年は続ける。

「俺が、将来いい男になったら、ちゅーしてくれよ!!」

何を言い出すかと思ったら、小学生らしい発言に思わず小さな笑いが零れた。

「…そういうのは、アナタが将来好きになった人と、ね」

それを聞いた少年は少し寂しそうな顔をした。

そしてもう一度笑うと、少年に言う。

「……今度、時間作って遊んであげる」

さっきまでの表情とは一変して、すごく嬉しそうな顔をする。

私はその顔に笑顔で返し、今度こそ本当に家へと帰る。

「約束だぞー!!唄ねーちゃん!」

少年達に手を振って、その場を後にした。

「…絶対俺に振り向いてもらうからな、唄ねーちゃん」

野望に燃える少年が一人、夕日に照らされ輝いていた。


家に帰ると自分の部屋でゆっくりしていた。

少年達のせいで、少し疲れた。

もちろん学校のせいもあるけれど。

「…好きになった人……」

自分で言った事を思い出して、呟く。

瞬間、頭に浮かんだ少年の事を考えて顔が真っ赤になった。

ボフッとクッションに頭をうずめる。

「私……好きなのかな」

そう言った瞬間、携帯が鳴った。

「きゃぁ!?」

体をはね起こすと急いで携帯を取り出す。

画面を見るとそこには『神崎紘』の文字。

「か、か、か、神崎くん……?」

いそいそしながらも、ボタンを押して電話に出る。

「はい、もしもし……」



(秋持くんの悩みに続く)

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