0-3外伝

□それぞれの冬
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〜紘と百合の場合〜

「紘ちゃん、見てみて〜」
百合は嬉しそうに首に巻いているマフラーを見せる。
「そんなに気に入ったのか?」
「うん、だってすごい可愛いし、紘ちゃんが買ってくれたんだもん」
嬉しそうに笑う百合。浮き足気味で、危なっかしい。
「まぁ、百合に似合ってると思うぞ」
「ホント!?すっごい嬉しいよぉ」
そう言って百合は自分の巻いているマフラーを紘の首にも巻く。
「百合、ちょっと短いんじゃ…」
「大丈夫大丈夫。こっちの方が暖かいし」
マフラーはあまり長くないため、必然的に体も密着。
百合は紘の腕を組む。
「えへへ、暖かいね」
「……あぁ。暖かい」


〜紘と唄の場合〜

「……遅い」
「ごめん、唄。寝坊した」
呼吸を整えながら謝る紘。
唄は不機嫌そうに紘を見る。
「今日の天気は?」
「え、あ、雪……です」
「よろしい。寒い?」
「………寒いです。色んな意味で……」
紘は冷汗をダラダラと流す。
唄が怒っている時は大体質問形式で罪を糾弾する。
「大体、10分くらいならともかく、30分も…くしゅん!」
くしゃみをする唄。
当然だろう。雪の中30分も健気に紘を待っていたのだから。
鼻は赤く、少し震えていた。
「だ、大丈夫か唄!?悪い、俺が遅れたせいで…」
「…別に大丈夫。このくらいじゃ…くしゅんっ!」
再びくしゃみ。
「だ、大丈夫」
紘を見ながら強がる唄。
紘は、そんな唄にマフラーを巻いてやる。
「ごめんな、唄。もう遅れないから」
「……分かればいい」
そう言うと、唄は自分の持っていたマフラーを紘に巻く。
「遅刻したから、一緒に巻くのはおあずけ」
唄は紘の手を握る。
「さ、行こ?」
「あぁ、行こう」
紘は唄の手をしっかりと握り返した。


〜悠一と雪の場合〜

「悠一くん」
自転車置き場に向かう悠一を行きが呼び止めた。
「あ、雪ちゃん!!まだ学校に居たんだ。もう帰っちゃったかと思って今から行こうかなって」
「私が悠一くんを置いて帰るわけないじゃん」
「…それもそっか」
二人は互いを見つめ合って笑う。
「で、雪ちゃんはもう帰るの?」
「いや、今日は……本屋さん行きたいから。悠一くんもどうかなって思って…」
「本屋さん?おっけー、行こう」
自転車をとって門を出る。
「雪ちゃん、後ろ乗って」
「うん」
二人乗りをしながら本屋へ向かう。
「いやー、今年も冬は相変わらず寒いねぇ」
「…うん、風強いしね」
「ほんとほんと」
自転車を漕ぐ悠一。
そんな悠一に雪は後ろからマフラーを巻く。
そして自分の首にも巻く。
「寒いでしょ?ごめんね、私のために」
「いいって、雪ちゃんのためなら全然大丈夫」
「…ありがとう、悠一くん」
雪は悠一に抱きつく。
「ちょっ!?雪ちゃん!?」
「…ありがとう。悠一くんのおかげで……今年の冬は、前より全然暖かいの」
吐く息は白い。
「こんな暖かい冬は初めて。だから、ありがとう」
「……どういたしまして」
雪は一層強く、悠一を抱きしめた。


〜知里と唄の場合〜

「ふぅ、いっぱい買ったわね」
「…うん、今夜はごちそう」
一つずつ買い物袋を持って歩く知里と唄。
中には晩御飯の食材がたくさん入っていた。
「寒いし、鍋で暖まりましょう」
「…鍋、楽しみ」
辺りは暗く、時刻は7時。
夜になり冷え込んでいた。
「…けっこう寒いわね。唄、大丈夫…じゃ、ないわね」
見ると唄はいつの間にか知里にくっついていた。
「えっと…はい」
唄の首にマフラーを巻く。
「それで少しは楽になると思うけど」
「…ありがとう」
唄は知里の手をがっしり握る。
知里は微笑んで、唄の手をしっかり握り返す。
「じゃぁ、早く帰って鍋にしましょう」
「…うん」
二人は口を揃えて言った。
「暖かい…」


〜知里と御影の場合〜

「ひっつくな。離れろ」
「ひ、ひどっ……けっこう傷つくんですけど」
「あぁそうかい。そりゃ大変だな」
御影は知里に毒を吐く。
しかし知里は怯まない。
「だって寒いでしょ?年中そんな薄着で…風邪引くわよ?」
「てめぇと違ってバカじゃねぇからな。体調管理くらいできる」
「バカは風邪引かない、とも言うわよね」
「……喧嘩売ってんのか?」
「嘘よ、嘘。冗談」
そう言って笑う。
御影はその笑顔をじっと見つめる。
「…ど、どうしたの?御影……」
「…別に。可愛いと思っただけだ」
「ちょ、は、はぁ!?御影!?いきなり何言ってるの!?そんな事言われたら……」
顔を真っ赤にして慌てる知里。
御影は楽しそうに笑う。
「嘘だ嘘。冗談だ」
「………」
知里は一気にふて腐れる。
「…御影のバーカ」
精一杯の抵抗。
知里は御影の方を見ようとしない。
「…へっ」
そんな知里の首にマフラーを巻いてやる御影。
知里は驚いて振り返る。
「へっ?御影……これ…」
「やるよ。俺のお古だ」
首に巻かれたマフラーをギュッと握り締める。
「……ありがと」
そう言って御影の首にもマフラーを巻く。
「っ!おい、何のつもりだ」
「カップル巻きってやつ。御影寒いでしょ?」
「……ちっ」
調子を狂わされた、と言った感じで顔を逸らす。
満更嫌そうでもない御影を見て、知里は笑う。
「ねぇ、御影」
「…なんだ?」
「さっきの、ホントに嘘なの?」
「何がだ」
「とぼけないで」
楽しそうに御影に詰め寄る知里。
観念したように、御影は言う。
「嘘だ。ちょっとだけな」


〜知里と唄と御影の場合〜

「……おい、まだ買うつもりか」
両手一杯。人間の限界を超えたような量の袋を持たされる御影。
「えー、まだまだこれからよ?ねぇ、唄」
「…うん、まだ序盤」
「ふざけろ」
御影は二人の発言を切り捨てる。
「せめててめぇらも持て。何で手ぶらなんだよ」
「えーっと、ごめんね。つい御影に…」
「…コクコク」
知里の隣で頷く唄。
御影は青筋を立てている。
「あ、えと、じゃぁ、ほら!!宅急便で送りましょう。うん、そうしましょ」
慌てて知里は近くの店に入る。
そして大量の荷物を家に宅配する事にした。
手続きを終え店を出たとき、御影の両手には知里と唄の持ってきたバッグだけが残っていた。
「ふぅ、宅急便使う事になるなんてね……荷物多すぎてお金がかなり減っちゃった…」
悲しそうに財布を撫でる知里。
「へっ、自業自得だ」
一時ぶりの自由がちょっと嬉しいのか、御影は少しご機嫌だった。
「…もうお金なくなったし、晩御飯の材料買って帰りましょう」
「…うん」
「あぁ、そうすっか」
「荷物は勿論御影で」
「てめぇが持ちやがれ」
「……あ」
言い合いをしていると、雪が降ってきた。
冬の代名詞である雪。
少し風も強くなる。
「少し寒くなってきたわね」
「…あぁ、確かにな」
すると、唄がバッグから長いマフラーを出す。
「…これ、三人で」
言うが早いか、御影と知里の首にマフラーを巻く。
そして最後に自分の首に。
「…ありがと、唄。暖かい」
「…うん」
「……まぁ、たまにはこんなのも悪くねぇ」
御影を真ん中に唄と知里がくっつく。
「さ、帰ってご飯ね」
「今日はハンバーグがいい」
「うん、じゃぁそうしましょう」
「肉か、いいな」
三人で他愛もない話をしながら帰る。
御影は思った。
桜もいいが、たまにはこんな季節もいいもんだ。


〜緋藤と花観と釦の場合〜

「あのー、これはどういう状況でしょうか」
呆然とする緋藤に二人は答えた。
「愛です」
「寒い」
緋藤にひっつく二人。花観に至ってはマフラーのカップル巻きをしている。
「離してくれると助かるんだが」
「嫌です」
「嫌だ」
「ほら、ジャンプ買わなきゃ」
「一緒に行きます」
「一緒に行く」
「……あ、トイレ」
「ご一緒します」
「一緒に行く」
「あぁ、お腹すいた…」
「…先生になら、私…食べられても…」
「私もお腹すいた。何か奢って」
「バイクで行こうかな」
「断ります」
「断る」
「彼女のところに行こうかな」
「―っ、誰ですか!?私が居ながら先生は一体誰に……」
「おい、どういう事だ!!」
地面にへたり込む花観と緋藤に向かって文句を言う釦。
「ちょ、嘘だ嘘…閏海、お前がそうなるとマフラーが絞まるから…」
それを聞いた花観はすぐに立ち上がる。
「ですよね。先生には私が居ますから」
「なんだ、嘘か…」
「あぁ、もう何かいいや…」
諦めて溜息をつく。
「仕方ない、腹も減ったし。何か奢ってやるから飯食い行くか」
「行きます!!」
「やったぁ、ご飯だー!!」
二人の教え子を連れ、緋藤は渋々歩き出す。
「えへへ、ありがとうございます。せんせ」
「たまには役に立つのね」
何だかんだで楽しそうな二人を見て、緋藤はこんな日もたまにはいいなと思った。


〜刹那と五月の場合〜

「っくし!!」
響き渡る大きなくしゃみ。
それを聞いて隣に居た刹那が嫌そうな顔をする。
「だらしない、風邪か?」
「あー、どうもそォみてェだな」
そして再びくしゃみ。
刹那は一層嫌そうな顔をする。
「…何故押さえない」
「いやァ、悪いねェ。移そうと思ってよ」
「……斬る」
一閃。
が、刀は外れる。
「――やはり斬れんか」
「運命だからな」
五月は口元を吊り上げる。
刹那は鋭い視線を五月に向ける。
「………ふん」
顔を背けながらも五月の首にマフラーを巻く。
そして、自分の首にも。
「どういう事だァ、侍?」
「…うるさい、刹那と呼べ」
「…そうかい。…ありがとよ、刹那」
「万全でない貴様を斬っても意味が無いからな」
「おォ、武士道ってやつだな」
刹那は五月の顔を見ようとしない。
そして一言。
「くしゃみは止まったか?」
「ん、そういや止まったな」
「――そうか」
それから刹那は一言も発しようとしない。
そして五月は一言。
「あァ、暖けェな」

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