0-3外伝

□緋藤颯は静かに暮らしたい
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ピンポーン。

ベルの音が響いた。

だがしかし和久隆、あと一時間程で新年。

こんな時間に尋ねてくる奴は無視するべきだと相場が決まっている。

突然の訪問者を無視、ジャンプを手に取る。

ピンポーン。二度目のベル。

それも当然無視。何故なら俺には嫌な予感しかしないからだ。

お湯を注いだインスタントのそば。

箸で麺の固さを確かめる。やや固めぐらいが俺は好きだ。うん。

ちょうど良い感じの固さになった所で、ジャンプを開き、麺を箸で取り、口へ運ぶ。

ピンポーン。そこで三度目のベル。

何なんだ一体。九ツ首の鐘か?

…おっと、俺とした事がマガジンネタを…ってまぁいいか。

ピンポーン、ピンポーン。

今度は立て続けに二回。

訪問者は大体分かった。十中八九奴、もしくは奴らだ。

分かったところで出たくないんだが……

そう思っていると、ベルの音が鳴り止んだ。

諦めた、とは考えにくいがそう思いたい。

俺は改めてジャンプを開いて、そばを口へ運ぶ。

その時

ガチャッ、という謎の音がした。

そして、ギィーと言う音。

悟った。

「センセー、どうして開けてくれないんです?」

背筋が凍りついた。

予想通り過ぎる人物。

振り向くとそこには閏海が居た。

鮮やかな着物を着て袖をフリフリしながら笑顔の閏海。

いやいや、笑えない。

「……閏海、一ついいか?」

「全然いいですよ。一つといわずいくらでも」

気前のいい笑顔。

いやいや、笑えない。

「何でお前、鍵開けれたんだ?」

「何でって…合鍵ですけど…」

さも当然と言った顔で俺を見る。

いやいやいや、全然笑えない。

「何で合鍵を……」

「それは、当然ですよ。パートナーとして。まぁ、これは最終手段だったんですけどね。センセーの方から受け入れて欲しかったんですけど…」

指を咥えて少し恥ずかしそうに頬を紅潮させて俺を見る。

ツッコミ所満載。あえて一つだけツッコもう。やめろその表情。

「……で、何のようだ?」

この時間とあの格好で用事は完全に分かる。

「センセ、初詣行きましょう♪」

ほらな。

「嫌です」

「嫌です」

俺の返事をオウム返し。今のスピードは神速だ。

「すまんが、俺は年越しはジャンプと決めてるんだ。さ、早く帰れ」

「私はジャンプ以下ですか……。それに、こんな時間に一人で帰るなんて怖いです」

「…………」

それを言われると弱い。事件に巻き込まれたりとかしたら大変だ。

ていうか、一人で来れて一人で帰れないってどういう事だ。

「…仕方ない。タクシーでも…」

「嫌です」

「………」

神速意見伐採。エコじゃない。

「私、年越しは先生とがいいんです。さ、初詣いきましょう」

笑顔で俺の手を取る。

こうなった閏海はもう止めれない。

それは経験からよく分かっている。

仕方ない。まぁ、たまには初詣もいいもんか。

「……あぁ、分かった。そばを食べたら支度してやるから座れ」

「ホントですか!?キャー!!やったぁ!!嬉しいです!!」

閏海は飛び跳ねながら叫ぶ。

こうして見るとホント年頃の女の子だ。

といっても俺の前ではほとんどこんな感じだが。

ていうか、俺はこいつとこんなしてていいのか……

と思っていると不意に閏海が足を滑らせた。

「きゃっ!?」

「っと!!」

倒れる閏海を抱きかかえ、何とか転倒は避けた。

が、二次災害だ。そばが床にぶちまけられた。

だがそれより閏海だ。

「……大丈夫か?」

「あ、は、はい。大丈夫…れす…」

すると閏海は下を向いた。

「ん?どうした?どっか打ったか?」

「あ、いえ…そういう……わけじゃ…」

「…そうか。どこも打ってないなら良かった」

すると突然閏海は立ち上がる。

「じゃ、じゃぁ、私っ、片付けするんで先生は座っててくだひゃいね」

「…声、裏返ったぞ」

「そんな事ないです!!」

そう言って台所の方へ閏海は向かっていった。

よくよく考えたら、今のはまずかったか。

あんな感じで閏海は俺に好意を持ったのだろうな、と自分の行動にちょっと呆れた。

だが閏海、あんな一面もあるんだな。

それはけっこう微笑ましかった。

秋旗あたりも居たら面白かったのにな。

「じゃ、私が拭くんで先生はテレビでも見ててください」

戻ってきた時はいつもの閏海だった。

まぁ、とりあえず

俺は立ち上がり、初詣の準備を始めた。
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