0-3外伝
□緋藤颯は静かに暮らしたい
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時刻は11時半くらいだろうか。
初詣に向かう人はやはり多く、普段は素っ気無い道路も賑わいを見せていた。
「センセー、今年もお世話になりました」
突然閏海がそんな事を言い出した。
何故か俺と腕を組んだ状態で。
「ホント、お前のせいで一年がより濃かったな」
「えぇー、そんなぁ。そんなに私を感じた一年だったんですかぁ」
嬉しそうにグッと腕に力を入れる。
多少の皮肉を込めたつもりだったが全く意味は無かったらしい。
どうしてこんなにポジティブなんだろうか……
「私も、先生をいっぱい感じた一年でしたよ…」
「声の調子を変えるな。誤解を招く」
「大好きです」
「いや、ほんと…誤解されるから…」
「何がですか?私が先生の事大好きな事は事実ですから問題無いでしょう」
「………」
コイツ……恐ろしい子!!
「先生に会えて、良かったです」
急に声の調子が変わる。
表情も、普段と違う。さっき見せた恥らっているような顔。
「先生のおかげでこうしていられますから……たとえ先生が振り向いてくれなくても…私はずっと先生が大好きです」
白い息と一緒に閏海は気持ちを吐いている。
「釦も…会いにこそ来てないですけど、沙耶だって。先生に会えて良かったって思ってますよ」
「……そうか。ありがとな」
「……こちらこそ」
改めて言われると気恥ずかしいんだが。だが、教師としては嬉しいことだな。
「閏海、りんご飴食べるか?」
「えっ?」
「食べたいんだろ?」
「え、いや…そんな…そりゃ、屋台見てましたけど…」
「別に意地張らないでいいぞ。秋旗には黙っててやるから」
「あ、ありがとうございます……は、恥ずかしい……」
下を向いて顔を隠す閏海。
そんな閏海を連れて屋台に近づく。
「あー、一つ」
300円払って一つりんご飴を受け取る。この手の屋台のは高いがしかたない。
「ほら」
「……いいんですか?」
「いいって。お前らしくないな」
そう言うと、閏海は俺からりんご飴を受け取る。
「……わぁ」
不思議そうに目を輝かしている。
どうやら一度食べてみたかったのだろう。
色んな角度からりんご飴を眺める閏海。
「い、いただきます…」
そう言うとかぷっと飴をかじる。
「お、おいしい……」
純粋に驚いた顔。
そしてまた一口。
「せんせ、これ美味しいですね」
とても大学生とは思えないような無邪気な顔。
おいおい何だ、これは俺と閏海のデートの話なのか?
一瞬浮かんだ考えはすぐに消える。
「先生も食べますか?」
「いや、いいからさっさと食べろよ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
最後の一口を頬張る。
「ごちそうさまでした」
礼儀正しく挨拶。
こういう所はやはり優等生だ。
担任をしてた時は、やはりこいつのこういう所に助けられたわけだ。
そういう面ではこいつの事は好きだ。
「じゃ、せんせー。お礼のちゅーを」
「絶対言わないけどな。調子に乗るから」
「……?」
まぁ、いつか機会があれば言ってやってもいいか。
そんな事を思ってしまった。