0-3外伝

□緋藤颯は静かに暮らしたい
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甘酒を飲んだ後、今度こそおみくじを結びに行く。

するとそこにはまたよく知る人物が居た。

「おい、チンタラしてっと置いてくぞ」

「何言ってんの。御影が早いの」

「もっと楽しむべき」

何てタイミングだ。今度は七瀬川と萩村だ。

あいつらよりは話が分かりそうだが、あんまり面倒にしたくない。

「う、閏海!!何か食べたくないか?」

「ど、どうしたんですか先生…さっきから」

閏海は、何か恥ずかしそうにもじもじと言った。

「いや、お腹空いたなと思っただけだ」

「そ、そうですか…」

とりあえず何かを食べる事に決定。

閏海の希望もあり、近くにあったクレープの屋台で買うことに決定した。

屋台に近づくと、元気のいいおじさんが店番をしていた。

「よう、カップルさんかい!!サービスで安くしてやる!!」

「せ、せんせ。聞きました?」

嬉しそうに目を輝かせてこっちを見る閏海。お世辞だ。

クレープを受け取ると、閏海はとても嬉しそうに俺を見ていた。

さっきのお世辞が大分嬉しいらしい。

「私達カップルですって、センセ!!はむっ」

そう言ってクレープに噛み付く。

「私、すっごい気分がいいです」

着物の袖をひらひらなびかせる。

「はぁ……」

一方で俺は溜息をつく。

けっこう疲れる。

ここまで来たら、もはや知り合いと遭遇しそうな勢いだ。

「…クリームついてるぞ」

閏海の口についていたクリームを拭ってやる。

「私も先生のクリーム拭いましょうか?」

「遠慮しておく」

その言い方は破廉恥だ!!

という最低な考えは心の中にしまっておくことにする。

そして、やっとおみくじを結べる。

知り合いが居る気も無い。

「ふぅ…疲れたな…」



「何だろ…今日の先生、やけに優しい…」

ふとおみくじに目をやる。

「まさか、このくじとか…」

特吉。そんなものあるのかよく分からないけど、当たったからにはあるんだと思って気にしてなかった。

そのおかげで、やたらと嬉しい事が起きたんだろうか…

じゃぁ、もしこれをずっと持ってたら…

そんな事を考える。



「どうした?結ばないのか?」

すると閏海は勢いよく顔を上げた。

「あ、えーと…」

すると、その場でおみくじを破り捨てた。

「…どうした?」

「あのですね、えー、占いとかに頼るのはやめようと思いまして。もともと、先生の家行った時からラッキーでしたし」

閏海は何か満足そうな表情だった。

「…そうか。じゃぁ、最後にお守りでも買ってやるよ」

「ホントですか!?やっぱり私ついてます」

喜ぶ閏海にお守りを一つ買ってやる。

「ほら。今年も健康でな」

「ありがとうございます!!これは私からです」

そう言うと俺にお守りを渡した。

「先生もご健康で。先生一人の体じゃないですから」

「…ありがとな。一言余計だが」

そうして俺達は帰ることにした。

「ちょっと早いが、いいか?」

「はい。十分楽しかったですから。これ、大切にしますね」

そう言ってお守りを大事そうに握り締める。

「あぁ、俺も大事にするとしよう」

満足そうに閏海は笑った。

「あんなもの無くても、自力で先生を振り向かせてみせますから」

満面の笑顔。

「何のことだ?」

「何でもないです。こっちの話ですから」

時計は0時になっていた。

「先生、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

深々と頭を下げる閏海。俺もつられて頭を下げる。

「明けましておめでとう。今年もよろしくな」

閏海が俺に飛びついてくる。

「今年も来年も、ずっとずっと大好きですからね」

相変わらずな閏海。とりあえずサービスで頭の一つでも撫でてやる。

「せ、先生?これは愛と感じていいんですか?」

「まぁ、教師から教え子への愛だ。受け取っとけ」

秋旗あたりだったらゲンコツだが。

「じゃぁ、帰るか。家まで送ってやる」

「何言ってるんですか?先生の家にお泊りです」

「…………」

これは厄介極まりないな。

「語り明かしましょう、せんせ♪」

何故か冷汗がダラダラと出た。

とりあえず、今年はいきなり厄日のようだ。

それでもまぁ、たまにはこんな年越しもいいか。

やや諦めも入ってそう思った。

「さ、せんせーの家に行きましょー!!」

「この際それでもいい。ただ、秋旗とか八城を呼べ」

「先生、私と二人きりは嫌ですか?」

あぁ、今年もいきなりハードだな。

この後の騒動の事は、考えたくもなかった。
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